ビジネス

2021.10.28 08:00

大企業は社内ベンチャーを殺すのか? あるサービスの成功事例に学ぶ


なぜ社内ベンチャーなのか


天辰氏はグリーンハウスに新卒で入ったわけではない。そこには不思議な縁があったという。
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元々天辰氏は、ベンチャー企業やコンサルティングファームなどでデータサイエンスなどの業務を担ってきた。その時に、知人の紹介でグリーンハウスの「外部の人間」として、同社の新規事業について相談に乗ったのが始まりだ。

当時は、独立して新規事業を立ち上げようかと考えていたというが、話を聞くうちに同社の思いやリソースに触れ、独立より面白そうだと思い転職。askenの創業に携わることになった。

起業経験がなく、ましてや社内ベンチャーを立ち上げたことがない天辰氏にとっては初めての経験ばかり。苦労もあったという。
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2007年に事業を立ち上げた当初、天辰氏は特定保健指導を被保険者向けに提供する企業・健康保険組合をターゲットにしていたというが、当時の保険指導は対面指導が前提で、デジタルやオンラインでの指導は対象外だった。健康保険組合はアナログな対面指導の準備に予算・時間を割いていたため、「あすけん」の導入クライアントを増やすのは容易ではなかった。

「個人でも会員登録可能な入会サイトは用意していたものの、1日の登録者数は数人程度の日もあるほど。苦しいスタートとなってしまいました」

しかし、親会社はその間も様々なリソースの支援をしながら長い目で見てくれたという。筆者が得ている情報では、あるIT企業の場合、社内ベンチャーに対して「10カ月〜1年である程度の数字を出してほしい」と言われることがほとんどで、1年で単年度黒字を目指すところもある。

askenのように親会社が長期に渡り暖かく見守ってくれるというのは非常に珍しいパターンである。速度を求められるIT企業ではなく、長い歴史の中で実業をしている企業ならではのメリットだろうか。

キーパーソンは親会社の生え抜き社員


では、現在600万人の会員を誇る成功の一歩はどこにあったのだろうか?

天辰氏は「レコーディングダイエットやカロリー計算がTVなどで取り上げられだすと、会員登録が増え、初期のロイヤルカスタマーとなってくださいました。とはいえ、事業が黒字化するには数値が足りず、ネットショップ開設、ガラケー版のリリース、対面指導やグループ指導と組み合わせたサービス提供など、できることはなんでも試していきました」と話す。

2014年のiPhone 無料版アプリのリリースで一気にブレイクしたが、それまでの道のりでは本当にたくさんのトライ&エラーがあったのだという。

このように、資本力とリソースのある社内ベンチャーでも様々な苦労がある。askenの場合は、地道に進むことでなんとか成功の糸口を見出せたのだろう。そして、スマートフォンの登場が急加速させた。

ただ、食やホテルサービスをリアルで提供するグリーンハウスが元々手掛けてきた事業と、askenのようなネット事業では常識・考え方が大きく異なった。

「そのため、新しい取り組みの開始や投資を伴う決裁をいただく場合などには、丁寧に説明する必要がありました」と天辰氏。

そこでキーパーソンとなったのが、親会社の社内FA制度(フリーエージェント制度)でaskenのコアメンバーとして異動してきた管理栄養士の道江美貴子さん。「道江さんは親会社のカルチャーで育ってきた人間で、人脈もあり、信頼を得やすかったと思います」
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文=野呂エイシロウ

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