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株式会社 Piezo Sonicの代表取締役・多田興平

東京都が都内のものづくりベンチャーを支援する取り組み、「東京都ものづくりベンチャー育成事業(Tokyo Startup BEAMプロジェクト)」。このプロジェクトに採択された企業の想いを聞き、未来に与えるインパクトを予見する連載企画が「『ものづくりの街TOKYO』始動」だ。

今回取材したのは、株式会社Piezo Sonicの代表取締役・多田興平。同社のコア製品であるピエゾソニックモータは、月面探査ロボットで使用するために研究・開発された回転型超音波モータをベースとしている。このモータがもつ、介助、医療の新領域を拓く可能性と、その先に見据える生活サポートロボットの開発に迫る。



「子どもの頃からロボットが出てくるアニメが大好きで、ほぼすべての作品を観ていると思います。弊社の製品から、どんなロボットデザインに強く影響を受けているかわかってしまうかもしれません」

株式会社Piezo Sonicの代表である多田興平は、現在の事業に至る道のスタート地点から話しはじめた。

「なかでも、主人公ではなくて、ロボット博士みたいなおじいちゃんが好きだったんです。ロボットの製作者で、ロボットのことをすべて知っているロボット博士が僕のヒーローでした」

小学校高学年から、当時流行していたラジコン製作に没頭し、大学も当然のように電気電子工学科を選択した。しかし、大学生になって、子どもの時分に憧れたロボット博士のような職業は、現実には存在しないことに気づく。

「ロボットに限らず、自動車でもなんでもひとりじゃなく、みんなでつくっている。それをなんとなく物足りないと感じるところがありました」

しかし、そんな多田を夢中にさせる出来事が起こる。大学4年次に所属した研究室で、あるモータと出会ったのだ。以来26年にわたりそのモータは彼の心を捉えて離さないでいる。

多田がいた中央大学では研究室に入るのは4年次となる。ちょうどそのタイミングでJAXAと明治大学、そして中央大学の3者で取り組む共同プロジェクトがスタートした。目的は、月面探査を行うロボットの研究開発だ。移動・機構領域の研究開発を明治大学が受けもち、ロボットアームを含む電装領域の研究開発は多田の所属する中央大学・國井康晴研究室が担った。

多田に与えられた最初の研究テーマは、「月面探査ロボットに使えるモータを探す」というもの。月面探査ロボットには、調査のために月の石を持ち上げたり、一部を破壊することが可能なアームをつけることが検討されていたが、重量を優先すると従来のモータでは必要とされるパワーは到底足りなかった。また、従来のモータは姿勢維持でも電力を使う。しかし、スペースの限られた宇宙ロケットではロボットのサイズ、搭載可能なソーラーパネルのサイズが限られる。そのため、常時、大電流が必要となるシステムを構築することが許されないのも容易に想像できた。

「普通にロボットで使うモータなら、『軽くて力が強ければいい』で話は終わるのですが、求められているのは月面探査ロボットに組み込むモータなので、パワーとともにこの電力の問題がありました。月面のロボットを遠隔操作する場合、月の公転の都合上、地上と通信が可能である2週間がキーワードになります。ソーラーパネルとバッテリーからの電力供給によりこの期間を継続して運用できることが、月面探査ロボットのモータに求められる最低条件でした」

多田は、國井教授のもとで多くのモータを検討したが、この「2週間運用」という壁が常に立ちはだかった。どのモータも姿勢を保つためにずっと電力を使い続けるので、バッテリーが保てないのだ。そこで出会ったのが、現在のピエゾソニックモータのベースとなる回転型超音波モータである。

エンジニアの心を折るモータの開発に挑む


回転型超音波モータはコイルや磁石を使わず、電圧を加えると変形する圧電セラミックを利用し、その変形をコントロールすることで回転運動を生み出す。その回転運動を伝えるために摩擦力を利用している。靴と地面の間の摩擦を考えるとイメージがわきやすいが、摩擦力は電力を必要とせず、常時発生するため、非通電・非制御でも姿勢を保つことができる。2週間運用の可能性が見えた。しかし、当時の超音波モータは電磁力で回転する同サイズのモータと比べてパワーはあるものの、寿命が1/10程度と短いことが課題とされていた。

多田は、この回転型超音波モータを宇宙仕様に改良し、真空環境である地球外で使えるようにする研究に取り組んだ。しかし、この研究も一筋縄ではいかなかった。

「超音波モータは、なかなか厄介な代物で『エンジニアの心を折るモータ』とまで言われていました。電磁力を利用したモータなら、効率を上げるためには構造やコイルを変えるなどの解決策が見出しやすいのですが、超音波モータの場合は『材料の物性』『機械設計』『摩擦力』の3つをすべて満たさないとなりません。それはまるで、3本の針のバランスを測りながら、その上で回転させるようなものです。

仮に材料で最適だと思うものが手に入り、次の機械設計についても完璧だと思っても、最後の摩擦力は別物です。というのも、摩擦力に大きく係わる摩擦係数は、実際に動かしてみないと測れません。物理の問題でも摩擦係数は常に仮の数字で、実験においても材料の性質や表面の仕上がり具合、温度、湿度、空気のあるなしで、毎回変わってしまいます。30分前に完璧だったものが、動かなくなってしまうというケースもざらで、心を折られて途中で辞めていってしまう学生もいました」

真空環境、ロケットの振動、宇宙放射線、宇宙特有のさまざまな条件に対応した回転型の超音波モータの開発と並行し、回転型超音波モータを利用したロボットアームの開発にも取り組んだ。ロボットアームの開発のために、JAXAの試作品を開発・製作していた企業を紹介された多田は、そこで機械設計などを学ぶとともに、研究の過程で人生のマイルストーンを得ることになる。

「JAXAに紹介された試作加工屋は設計者と加工者が同じ場所で仕事に取り組む、平均年齢60歳の超ベテラン集団でした。私は小さい頃からおじいちゃん子として育ってきたということもあり、みなさんに気に入ってもらえて色々なことを教わりました。私の専門は電気電子工学だったので、回路はわかっても機械設計は専門外。機械設計についてはそこで一から習いました。ロボットアームの設計や試作、回転型超音波モータの宇宙仕様化のための治具製作などにご協力いただき、実験は順調に進んでいきましたが、あるとき、回転型超音波モータの真空環境対応において、摩擦力を決める材料の変更をしなければならないことが明らかとなりました。当時は、もう必死で回転型超音波モータの購入先のモータメーカにしつこく質問しました。そうしたなかで、回転型超音波モータの発明者である指田年生さんに直接会う機会を得たんです。ここぞとばかりにさらにしつこく質問しましたね(笑)。指田さんに回転型超音波モータの真空環境対応というテーマは気に入ってもらえ、『だったら、手伝ってやるよ』と研究開発に加わってくれたのです」

回転型超音波モータの第一人者までが、月面探査用のロボットモータの研究に加わった。そして、指田と多田による年齢の差を超えた情熱の交わりは、多田の大学院修了後も続いた。多田は、指田の誘いで指田の会社に就職。超音波モータの研究を続ける道を選んだ。

就職の1年後、多田を同社の技術開発部長に抜擢され、回転型超音波モータやその制御回路の開発に没頭した。しかし、指田氏は多田の入社9年後に他界。その1年半後に多田は独立することになる。

「人を支えるモータとロボットを生み出す」ために起業


技術開発部長として研究を続けていた多田は、回転型超音波モータの新たなバリエーションの開発や新しい制御回路の開発に取り組んでいた。ここで、回転型超音波モータの用途拡大のためには、このモータの最大の課題である寿命の延長(長寿命化)が必要となることに気がついた。

「超音波モータの寿命を伸ばすという研究は、JAXAと共同研究の成果をベースとして、どうすればいいのかという目処も立ちはじめていました。ですが、材料を変えたり、駆動回路そのものを改造したりすることには開発コストと失敗のリスクが伴い、既存のメーカーという枠のなかではなかなか取り組むことができなかったのです。しかし、いつのころからか、回転型超音波モータの用途拡大、知名度向上を自分のライフワークのように感じていて、新しい領域へチャレンジできないかと考えていました。
例えば、回転型超音波モータをロボットのモータとして利用するためにPCなどからデジタル制御を行うなら、それまでの回転型超音波モータのシステムをドラスティックに変える必要があり、そこを目指したいなら起業するしかなかったのです」

最終的に起業を後押ししたのは、多田が見てきたエンジニアとしての師である指田の背中だった。指田が好きなように超音波モータの開発にチャレンジできていたのは、そこが自分で起業した会社であったからだ。エンジニアが起業すれば、自身の権限で動き、自分の考えで夢を追うことができる。指田の背中は、そう教えてくれた。あらためて自分の夢はなにかと考えたとき、多田にとってのモータは、子どもの頃から胸をときめかせていたロボットのモータにほかならなかった。

「大学からずっと研究・開発・製造に携わっていて、幸いにも心を折られずに展開できている回転型超音波モータを多くの人に知ってもらい、使ってもらいたいと真に望んでいます。しかし、モータはお客様からすれば単にひとつの部品にすぎません。このモータの良さを伝えるためには、自らどのように使うとよいかの模範例となる製品をつくり、それを実証例として紹介できるようにしよう。そして、本気でこのモータがロボットに最適であると考えるなら、指田さんのように自分で起業してモータからロボットまでをつくることができるメーカを作ろうと決めました」

こうして多田は、「人と協働し、生活を支えるモータとロボットを創造する」ことを理念に掲げ、たったひとりで起業した。2017年末のことである。起業してすぐ、高トルクという特性を損なうことなく長寿命を実現する新型超音波モータの開発に取り組んだ。深夜でも設計ができるよう自宅に環境を整え、加工はものづくりのコワーキングスペースであるDMM.make AKIBAで行った。

「最初の頃は、加工屋に発注せず、自分で加工することでコストを抑えました。また、自分で手を動かすことで形状や材料の課題についても直接感じることができました。しかし、すべてを完成させてからお客さんに見せるのでは時間がかかってしまいます。だから、模型でもいいから、とにかく原寸大の見せられるものを用意して、これを完成させるから費用を出してほしいと説明しました。そして、チャンスをいただき、次の打合せまでに動くモデル、その次の打合せまでに回路もあわせて安定して速度が制御できるモデル、と開発を進めていきました。この集中した研究・開発によって、現在のピエゾソニックモータの部品は生み出されていきました」

18年に、大田区のものづくり支援施設である「テクノFRONT森ヶ崎」に移転してから、多田はさまざまなコンテストにエントリーした。品質には自信があったが、顧客の立場からするとスタートアップは信用が足りないと考えたのだ。同年に精密工学会の「ものづくり賞」、「第10回 大田区ビジネスプランコンテスト」を受賞。その翌年にはモータ単体では8年ぶりとなる「グッドデザイン賞」や、「大田区中小企業新製品・新技術コンクール」で賞を獲得するなど、着実に信用を積み上げていった。

「材料とモータの構造をしっかりと検証し直し、耐久性を上げることに成功した弊社の回転型超音波モータは多くの評価を得て、『ピエゾソニックモータ』の名称で商品化することができました。寿命が1,000時間程度から3,000時間以上(間欠動作では6,000時間以上)になったことで、エンジニアの方がほかの方式のモータと「性能」を比べることができるようになり、現在は大学・研究機関やロボットメーカ、装置メーカはもちろん、医療機器メーカにも販売させていただいております。ひとりで始めた会社ですがモータ製造の体制を整え、現在は10名を超えるスタッフが活躍しています」

サービスロボットが友だち・仲間として人間に寄り添う時代に向けて


多田は、今回のTokyo Startup BEAMプロジェクトの採択を受けて「サービスロボット用新型モータの試作開発プロジェクト」に挑戦する。ピエゾソニックモータを、いよいよロボットに応用していくのだ。

超高齢化社会に突入した日本において、介護業界の慢性的な人手不足への対応は喫緊の課題である。そこにはロボティクスの介入が望まれているが、実用化に向けては課題が山積している。その際たるものが、最適なアクチュエータ(電気エネルギーを運動に変換する装置)が存在しないことだ。

多田が手がけたピエゾソニックモータは、同サイズのほかのどのモータよりもパワーがあり、耐久性においても引けを取らない。動作音も小さいので人を怖がらせることもなく、ロボットによる多くの介助を可能にする動力として希望の光となっている。多田は今回の採択で、このピエゾソニックモータを関節部分などに使用可能な中空型の超音波モータに改良していくことと、より高トルクなモータを生み出すことで、介助用サービスロボットへの応用性を一気に高めることを目指す。

「Tokyo Startup BEAMプロジェクトの支援により中空型ピエゾソニックモータ、高トルクピエゾソニックモータの試作品は完成しました。このプロジェクト期間内にはサンプル出荷が開始できるように製品の性能と安定性を高めたいと考えています。また、このモータの活用を検討できる領域として、特に期待されているのが医療機器の領域です。そもそも、回転型超音波モータは回転原理に電磁力を使わないという特性から、MRI内で使える唯一のモータとして注目されていました。例えば、MRIでのみ特定できる病巣に対し、MRI 内で施術を行うロボットのアクチュエータとしてピエゾソニックモータを導入することも検討されています」

ピエゾソニックモータの新たなバリエーションの研究・開発を進める多田は、同時に、Piezo Sonic創業時から自身が常にモータの先に見据えていたロボットへの歩みを開始した。

「さまざまな用途での導入が検討されているピエゾソニックモータですが、やはり部品だけではなくてトータルコンポーネントとして、ロボットをつくりたいという念(おも)いは変わりません。弊社では18年から大田区の支援を受けて搬送用自律移動ロボットの開発を進めていましたが、今年の4月、ピエゾソニックモータをステアリング機構に採用したAMR「Mighty-D3」のローンチを行いました。コロナ禍で非接触の要求が高まったこともあり、工場や倉庫内だけでなく、一般施設でも自律移動ロボットによる配送に注目が集まっています。特に、病院では患者の誘導や食事や機材の運搬、移動中の除菌・消毒作業での活用が期待されています。この「Mighty」シリーズには月面探査ロボットの走行性能があり、小回りや真横移動ができるだけでなく、15cmの段差を乗越えることができます。開発には中央大学の國井教授にも協力いただいています。まさに今までの私の経験の集大成です」

多田が自らの集大成と称すAMR:「Mighty-D3」は機能だけでなく、見た目を重視して製作されている。そこに、ロボットを目指す多田の念(おも)いのすべてがある。


ピエゾソニックモータを搭載した搬送用自律移動ロボット

「一般施設で利用するロボットには、機能だけでなく、見た目も重要だと考えています。弊社の製品は無骨になりすぎないデザインコンセプトとして3C、「CUTE」、「COOL」、「COMPACT」を満たすことが重要だと考えています。AMR「Mighty-D3」もこのコンセプトに基づいています」

欧米と日本ではロボットに対する感覚が異なると、多田は言う。欧米では人間に従属して「使役する物体」と捉えがちだが、日本には「友だち・仲間」として捉えようとする感性があるという。その根底には、日本のアニメや漫画で多くのロボットが擬人化され「友だち・仲間」として描かれてきた世界観がある。多田が「Mighty」のデザインにこだわったのにも、日常の生活を補完するサービスロボットは、友だちのような存在であるべきだとの信念があったからだ。

「いきなり人型のロボットを開発することには技術的な難しさがありますが、「Mighty」はそういった日本人のロボットに対する感覚を大切にして製作しました」

人間の生活に寄り添う人型の介助用サービスロボットは、もしかするとこうした感覚をもつ日本人技術者からでないと生まれないのかもしれない。

将来、世界初の人型の介助用サービスロボットが誕生するとき、その傍らには幼い頃からの夢を叶えた多田興平がいるはずだ。



多田 興平(ただ こうへい)◎1975年、神奈川県生まれ。中央大学大学院理工学研究科修了。大学在学時よりJAXAとの共同研究で月面探査ロボット用モータの開発に携わる。共同研究先のモータメーカに就職後は、超音波モータをはじめとするロボット技術において、機構設計、駆動回路の設計、開発、製造までに至るまで、ほぼすべての工程を担当。 2017 年に株式会社 Piezo Sonic を設立。

── Tokyo Startup BEAMプロジェクト ──
「BEAM」は、Build up、Ecosystem、Accelerator、Monozukuriの頭文字。
BEAMは、都内製造業事業者やベンチャーキャピタル、公的支援機関などが連携し、ものづくりベンチャーの成長を、技術・資金・経営の面で強力にサポートする。東京は、世界で最もハードウェア開発とその事業化に適した都市だ。この好条件を生かし、東京から世界的なものづくりベンチャーを育て、ものづくりの好循環を生み出すこと(エコシステムの構築)が、本事業の目的である。
本記事は、東京都の特設サイトからの転載である。

本事業に関する詳細は特設サイトから

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