では、一体誰がハバナ症候群を引き起こしているのだろうか。米政府の元当局者は「ほとんど米政府関係者ばかりが標的になっているし、発生地も旧東欧・共産圏の影響力が強い場所が目立つ。どうしてもロシアに疑いの目が向いてしまう」と語る。この元当局者は、被害者の数がそれほど多くないとして、「米政府の外交や情報収集活動を鈍らせるため、一種の警告として行っているのではないか」と指摘した。米ウォール・ストリート・ジャーナルは、ロシア外務省報道担当者が、「ロシア嫌いのプロパガンダマシンによるフェイクニュースだ」と述べ、疑惑を否定したと伝えた。
山下氏によれば、高周波兵器を準備する場合、アンテナや機材、発電機などが必要になるため、装備が大型トラック程度の規模になるという。音響兵器はそれよりも小規模だが、自衛隊が使用している高機動車程度の大きさになる。米国大使館は、どの国でも厳重な警備体制を敷いており、従来の兵器を使った場合はすぐに発見される可能性が高い。今後の捜査が進展しない場合、従来よりも小型化された高度な兵器が使われたということなのかもしれない。
逆に、こうした攻撃から身を守ることは可能なのだろうか。日本の場合、スパイ活動を受ける恐れがあり、秘密保護の必要が高い一部の在外公館には、通称「金魚鉢」と呼ばれる、一切の電波を遮断する特殊な部屋が備わっている。盗聴を防ぐためだが、電波を通さないので、こうした施設にいれば、安全だろう。日本政府関係者によれば、こうした施設はごく一部で、大半の「盗聴防止策」は窓にシールドを貼って電波を出さないようにする程度なので、完璧に電波を遮断することは難しいという。また、ハバナ症候群の場合、政府関係者だけではなく、その家族も被害に遭っている。在外公館だけでなく、館員の宿舎まですべて守ることはほぼ不可能だろう。
ただ、幸いなことに、ハバナ症候群が原因で離職しようとする米政府関係者はほとんどいないという。米政府の元当局者は「むしろ、トランプ政権時代に米国らしい外交ができないと訴えて辞めていく人が結構いた。最近では、新型コロナ対策が不十分だという理由で離職する人もいる。それに比べれば、ハバナ症候群の影響は大きくない」と話す。米国の外交に混乱をもたらしているのは事実である一方、米外交官たちの士気は落ちていない。ハバナ症候群を引き起こしてる「犯人」のもくろみを、是非はね返して欲しいものだ。
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