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朝日新聞外交専門記者

米国のバイデン大統領(Photo by Chip Somodevilla/Getty Images)

米国のバイデン大統領は10月8日、「ハバナ症候群(Havana Syndrome)」と呼ばれる症状を発症した、外交官や政府関係者を支援する法案に署名した。ハバナ症候群が初めて発見されたのは2016年。キューバの首都、ハバナに駐在していた米外交官らが、頭痛や吐き気、聴覚障害などの症状を訴えたのが始まりだ。これまで、ロシアやポーランド、中国などに駐在する約200人の米政府関係者やその家族が被害を受けたとされる。今年8月には、ベトナムでハバナ症候群が発生した可能性を受け、ベトナムを目指していたカマラ・ハリス米副大統領を乗せた航空機に数時間の遅れが出るなど、事態は深刻になっている。

知り合いの米政府の元当局者は、かつての同僚たちから聞いた話として、「思考力や判断力が落ちるそうだ。ごく簡単な問題が解けなくなるし、集中力も続かない。新型コロナウイルスの後遺症に似ているという訴えもあるそうだ」と語る。被害に遭った関係者らは米本国に戻り、治療を受けている。だが、ハバナ症候群にかかり、ずっとその症状が残る人もいるようだ。

外電などは、症状が出る前に甲高い音を聴いた被害者もいたとして、高周波による攻撃ではないかとする専門家の見解を伝えている。陸上自衛隊中部方面総監を務めた山下裕貴元陸将は「音響兵器や高周波兵器の可能性がある」と語る。山下氏によれば、音響兵器はLRAD(Long Range Acoustic Device=長距離音響発生装置)とも呼ばれ、捕鯨船に搭載されていたことで話題になった。捕鯨船は、米環境保護団体などによる捕鯨妨害活動に悩まされていた。耳をつんざくような音波を相手に照射し、対象者に耐えがたい苦痛を与えるという。高周波兵器はマイクロ波を放つことで、照射された相手の皮膚の下の痛覚を刺激し、激しい傷みを与えるとされる。いずれの兵器も数百メートルから1キロ程度先まで照射できる。指向性があるため、その場を離れれば、相手は不快感や痛みから解放されるという。

米軍は、これらの兵器を人道的な「非殺傷兵器」として保有しており、自衛隊も研究している。基地の警備に使えるほか、デモ隊を鎮圧したり解散させたりすることにも有効だという。山下氏は「音響兵器を調整すれば、人間が聞き取れない周波数によって相手の三半規管を刺激することも可能だろう」と語る。

文=牧野愛博

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