ビジネス

2021.10.23

花と茶の道に答えはあった

東山 四季花木 代表取締役 北山ますみ

インテリアデザイナーとして、個人の邸宅からホテルやマンションなどの大型建築まで数多く手がけてきた北山ますみ。夢中になっている華道や茶道の奥深さについて聞いた。

大学卒業後は大手上場企業に勤めたのですが、外国文化に触れた経験や、海外インテリア雑誌『AD』を長く定期購読していた影響からインテリアデザインに興味を抱き、高級輸入住宅メーカーにコーディネーターとして再就職。1993年には建築家の夫とアーキ・ディレクションズを設立し、これまで個人邸・別荘の設計プロデュースや、エグゼクティブマンション、オフィスビルのプランニング、リゾートホテルやシティホテル、総合結婚式場のプロデュースなど幅広く手がけてきました。

また、海外のさまざまなリゾート施設や建築・文化に触れることで、日本の美意識を再認識し、型にすべく、2019年にスモールラグジュアリーホテル「東山 四季花木」をオープンしました。建築は夫、インテリアデザインは私が担当し、経営にも携わっています。たった8室ではありますが、日本の美を伝える引き算の設えや茶の湯のおもてなし、琴線に触れるようなパーソナルな接客で、お客様が「京都の別荘」と感じてくださるような唯一無二のホテルを目指しています。

個人宅を手がけるようになってあらためて気がついたのですが、建築物というものは単に利便性を追求してはならないんですよね。例えば家での動線は、寛ぎのなかでより良い家族の対話を生むのにとても重要。大きな書棚に本がたくさん並んでいれば、子は読書が好きになるかもしれない。ピアノや絵画があれば、音楽家や芸術家を志すかもしれない。そのように空間の中のデザインや環境が人間形成には非常に大きく影響するのだと腑に落ち、この仕事にやりがいを感じています。

いま夢中になっているのは、華道と茶道です。華道は、京都生まれ、東京在住の華道家・上野雄次さんの「花を生けることで、己や他者を理解する」というお考えに共感し、京都で教えてくださる際に伺っています。ホテルの玄関や廊下、客室などのお花も私が日々、生けています。

お茶を初めて習ったのは、実は大学時代。母親に勧められ「嗜み」としてやっていただけで、特別な思いはありませんでした。ところがホテルを経営することになり、お茶が京文化の作法のひとつなので、一から勉強しなおそうと。縁もあって、裏千家業躰の先生に学んでいます。昔取った杵柄とはよく言いますが、柄杓をく手にするだけで自然に体が動くから不思議です。4時間座りっぱなしで、非常に厳しいお稽古ですが、自分の意志で始めたので楽しくて仕方ありません。

特にいまは花や花器を選び、箱からお茶碗を出し、炭をおこすところから、お客様を送り出して茶道具を仕舞うまでの「すべてのプロセスがお茶である」とわかり、準備すら心が浮き立ちます。所作を含めた決まり事も、相手に対する敬意があってこそ。ホテルでのおもてなしとして、お客様の御待遇としての茶会を催すことを、ひとつの目標としています。

それらはホテル経営にもよい影響がありました。水を打って清めておく。選りすぐりの煎茶と菓子を用意する。清らかな香りのお香で迎える。きめ細かな準備はお客様が喜んでくださるだけでなく、自分自身の日々のときめきにも通じるのです。
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構成=堀 香織 写真=yOU(河崎夕子)

この記事は 「Forbes JAPAN No.086 2021年10月号(2021/8/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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