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2021.10.30 11:00

香港飲茶ブームが再来? 人気店の背景に「点心師」の争奪戦

twomeows/Getty Images


日本に30年近く住む彼らの多くは、来日後、飲食業で働いた経験をたいてい持っており、自分がオーナーだったらどんな店にするかといった話をするのが好きなのだ。この家賃なら客単価や1日の集客はこのくらいなければやっていけないなどと、まるで我がことのように言い合う。こうした様子は、香港や広東の飲茶で見られる光景と変わらないと思うと、一瞬日本にいることを忘れてしまいそうになる。
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実は当日の参加者のなかに湖南省出身で、香港飲茶の店を最近始めたオーナーがいた。彼は新規店の視察も兼ねて同行していたのだが、「最近、東京に香港飲茶の店が増えているのはなぜか」と尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。

「日比谷の『添好運(ティムホーワン)』にいつも行列ができているのを見た。日本人は香港の飲茶が好きだとよくわかった。どうせやるなら、飲茶の店にしようと考えた」という。

添好運は2018年4月に日本初上陸した、香港でミシュラン1つ星に輝く点心専門店であるが、なんという率直な動機だろう。同席した別の広東人女性も「最近は東京に中国各地の料理店ができたけど、結局、日本人は点心が好きなのよね」と話す。
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いつも行列ができている日比谷の点心専門店「添好運(ティムホーワン)」

彼らは、1990年代の香港ブームのときにはすでに来日していて、当時の日本を知っているからだ。その頃、香港料理が評価されているのをうれしく思ったそうだ。彼らの話を聞いて、最近都内で香港飲茶の店が増えた、その真相について腑に落ちた気がした。

東京にこれまで日本人が知らなかった、中国各地の本場の中華料理を出す店が続々生まれており、筆者はそれらの現象を「東京ディープチャイナ」と呼んでいる。そこには、彼らのまったく異なるふたつの顔が見られる。

ひとつは、中国出身の人たちが故郷の味を懐かしんで店を始めたという情緒的な側面だが、もうひとつは小気味よいほど利に徹するプラグマティックな側面である。

なぜなら、彼ら中国人オーナーたちはこれまで苦手としていた日本人客の取り込みに対して飲茶に商機があると見て、自分の故郷とは縁もゆかりもない広東省や香港の店を始めたからだ。そこには彼らのあくなき経営努力とともに、広東省をはじめとした各地の調理人とオーナーたちの相互横断的なネットワーク、そして海外で生きることを選んだ彼らゆえの融通無碍な関係性があることをあらためて知るのである。

連載:東京ディープチャイナ
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文・写真=中村正人

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