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2021.10.30 11:00

香港飲茶ブームが再来? 人気店の背景に「点心師」の争奪戦


点心師の争奪戦が起きている


流行は20年周期で繰り返されるとよく言われるが、最近都内にオープンした香港飲茶の店の多くは日本人のオーナーではなく、香港に隣接する広東省出身で点心の調理資格を有する点心師と中国の他の地方出身のオーナーたちとのコラボに特徴があるといえるだろう。

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人気点心といえば皮が透明で透けて見えるエビ蒸し餃子

黒龍江省出身で、これまで羊料理や鉄鍋料理など、中国東北地方の味を日本人に広めた第一人者のひとりでもある前出の梁宝璋さんに話を聞くと、今回広東料理&点心専門店の出店を決めたのは、友人の紹介で知り合った点心師の何偉昌さんの存在が大きかったという。

梁さんは味坊工房という中華食品工場を経営し、これまで羊肉を中心にした加工品の通販を行っていたが、何さんの登場で、広東風の点心や月餅が工場のラインナップに加わり、いずれは点心の店を出したいと考えていたそうだ。

梁さんの話で面白いのは「何さんは広東人なので、ぼくら店のスタッフが話す普通話(中国の標準語)は得意ではない。でも、彼の仕事ぶりからものづくりの心は伝わってくる」というエピソードだ。

都内にある中国系の店では、オーナーや厨房の調理人、配膳スタッフは必ずしも同郷ではないことが多いが、梁さんの店に漏れず、昨今、東京に出店された香港飲茶の店では、広東語ではなく普通話が交わされている。

また梁さんは「都内の中国人オーナーの間で点心師の争奪合戦が起きている」とも話す。背景には、コロナ禍で横浜中華街をはじめ大型広東料理店の営業が低迷し、広東出身の点心師を店が抱えられなくなり、職を探して都内の店に流れて来ているという事情もあるようだ。

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上野アメ横で見かけた「面点師」(点心師のことを中国北方でこう呼ぶ)の求人ポスター

広東省はこれまで多くの華僑を世界に送り出してきた。日本在住の広東省出身者は、他の省に比べて多いとはいえないが、筆者には親しい友人が何人かいる。彼らは、新しく香港料理や飲茶の店がオープンしたと聞くと、必ず足を運ぶ。故郷の味が懐かしいせいもあるだろうが、どんな味なのか試しに行きたくなるようだ。

彼らと数人で連れだって、先日もあるニューオープンの香港飲茶の店を訪ねたが、その場の彼らの様子が面白かった。なにしろ味にたいそううるさく、いろいろなメニューを注文し、みんなで食べ分けながら、次々と評定を下し始めるのだ。

ある広東人の女性は「この店の点心は工場でつくったものを蒸しているだけなので、注文しちゃダメ」「腸粉はしわがないと見た目はいいけど、味がいいとは限らない」と手厳しい。彼女によると、店の評価は豆鼓ソースの独特のスパイシーさと甘みが複雑に絡み合う豆汁蒸鳳爪(鶏爪の豆鼓蒸し)の味が決め手になるのだという。

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コラーゲンたっぷりの鶏の爪の豆鼓蒸し「豆汁蒸鳳爪」

さらに、厨房から点心師をテーブルに呼び、話を聞き込む。すると、ふだん広東語を話せないスタッフに囲まれて仕事をしているので、点心師もつい饒舌になるのだ。

筆者が、ふと「香港で見たような点心をワゴンに載せて運ぶサービスがあったら客が喜ぶのでは」と口にすると、「こんな都心の家賃の高い場所では無理よ」と先ほどの彼女に一蹴された。彼らが点心師に聞き出していたのは、本人の給料の額はもとより、店の家賃や材料費などの、厨房から見た経営指標にまつわる話だったのである。
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文・写真=中村正人

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