EY
Entrepreneur
Of The Year
2021 Japan

2021 Finalist Interview

#01

株式会社マリモホールディングス
代表取締役

深川 真

利他を志すバランス経営者

株式会社マリモホールディングス 代表取締役 深川 真
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バランス感覚を評価され、
先代から後継指名を受ける

94年、深川はまだ大学4年時ながら同社で働き始めている。マリモは設計事務所からデベロッパーへと成長を遂げた会社だ。この社史そのものがすでにユニークなうえに、分譲マンションの企画・開発・販売において独自の方針を掲げてきた。

「人口10万人から30万人程度の中小都市に特化した“地方都市ニッチ戦略”です。デベロッパーへと転身した当時分譲したのは、中四国にある人口10万人前後の小さな都市ばかりでした。他社が進出してこない地方都市での事業推進がマリモの強みとなり、その後の成長につながっていきました」

2000年、深川は長らく背中を見てきた父から後継指名を受ける。27歳のときだった。

「後継者に選ばれた際、私が父から買われていたのは“バランス感覚”です。“誰とでも仲良くなることができて、社員とも打ち解けている。人の話をよく聞いて、素直な性格である”というのが、私に対する父の評価でした」

深川が後継指名を受けたころから、マリモは全国展開へと舵を切っている。中四国のニッチ市場が飽和状態となり始めたためだ。

「事業を伸ばしたいという夢へ挑戦するよい機会でした。私に任されたのは、マーケット調査と用地仕入れです。東京・大阪・沖縄以外で全国にある人口10万人以上の都市数は219。私は“全国の中小都市のマンション市場を開拓する”という使命を全うするために、そのすべての都市を歩き続けて視察・調査・仕入れを行っていきました」

若き日の深川は、そうした地方都市に先遣隊として赴き、徹底的なマーケット調査を行った。単にソロバンをはじいていたのではない。そこに住むことになる人々のために、昼夜の区別なく用地の環境調査に励んだのだ。住む人の暮らしや人生、ウェルビーイングに重きを置く態度は、設計士であった父からの教えだ。

また、“誰とでも仲良くなることができて、社員とも打ち解けている”と父から評された深川は、社員の採用においても全責任をもって取り組んできた。外向きには事業開発、内向きには人材開発。社長に就任する前から、深川はふたつの大事な能力を磨き、発揮してきたのだ。

株式会社マリモホールディングス 代表取締役 深川 真

「社会に必要とされる企業であり続けるために、私たちは事業のポートフォリオとして“2030年にソーシャルとビジネスの割合が50:50で共存する会社”を目指します」──マリモホールディングス
 代表取締役 深川 真

社長になって最初に取り組んだのは、
理念の制定

深川はマリモの代表取締役社長に就任して間もないころに、京セラの創業者・稲盛和夫名誉会長が若手経営者に人生哲学や経営哲学を伝える「盛和塾」の門を叩いている。

「塾長の至言でもっとも深く私の胸に刻まれているのは、“両極端を併せもつ”という言葉です。“稲盛さんは、ときに烈火のごとく怒る。私も何度も何度も呼び出され、叱責されたことがあります。その一方で、自分の家族の身の上に起きた不幸な出来事に関して、ときに涙ながらに聞いてくれ、本当に心配してもらったことが幾度もある……。”これは、京セラの元役員の方から聞いた話です」

盛和塾では、「会社にとって理念が非常に大切である」という基本にして究極とも言える精神を学べたのも大きな収穫だった。

「私が社長になってから真っ先に取り組んだのは、理念の制定でした。私たちがもっとも大切にすべきものとして掲げたのは、“利他と感謝”です。以下が全文になります。

“『利他と感謝』 他(顧客、社員、社会、家族、自然など自分以外のすべて)を利することを喜び、感謝が感謝を生む人間社会実現のため、私たちは利他と感謝の精神を経営理念とする”」

利他と感謝が、究極的には会社あるいは私自身の存在理由であると深川は語る。いま、経営理念の他に社員の行動指針などが盛り込まれたマリモグループの手帳「MARIMO WAY」は、グループに集う一人ひとりの精神的・行動的な拠りどころになっている。

株式会社マリモホールディングス 代表取締役 深川 真

深川が中心になって編纂したマリモグループの手帳「MARIMO WAY」。経営理念の他に社員の行動指針などが盛り込まれている。

海外進出、
そして不動産総合デベロッパーへ

2000年からの深川の市場開拓により、マリモの業績は目覚ましく躍進した。1990年からの10年間は売り上げ5億円〜30億円程度だったが、2000年からの10年間で売り上げ600億円規模という20倍ものスケールとなっている。驚くべきは、2008年のリーマンショックにおいても赤字に転落していないことだ。社長就任の翌年でありながら、いち早い判断と強いリーダーシップによって、他社に先駆けて事業用地を売却し、自ら事業融資を取り付けて、当時の時流に合った買い取り再販事業に一時的にシフトさせることで、非常事態を乗り越えたという。

しかし、それで満足する深川ではなかった。ここからが、アントレプレナー・深川真の本領発揮となった。

「国内での分譲マンションの企画・開発・販売という単一事業に頼った事業構造を変えるべく、私たちは動き始めました。まずは、伸びゆく海外市場への挑戦です。2012年2月には、中国江蘇省蘇州市に現地法人を設立しました。国有デベロッパーとのパートナーシップにより、2015年10月には全戸内装付きの高品質マンション12棟853戸を完売することができました」

このプロジェクトに続き、ふたつ目の大規模プロジェクト(18棟1260戸)も大成功を収めるなど、住む人のウェルビーイングを増進させるマリモのノウハウは海外でも機能している。

株式会社マリモホールディングス 代表取締役 深川 真

中国マンションプロジェクト第1弾の「北極星花園」(左)と第2弾の「北極星 尚雅苑」(右)

深川真の代になり、マリモはマンションデベロッパーから不動産総合デベロッパーへの転身も果たすこととなった。2014年1月には、収益不動産事業を本格的に始動させている。これは店舗・住宅・オフィスなどの収益不動産物件に対し、マリモがリノベーションやリーシングを行い、収益力と持続性を向上させる企画・プロデュース事業だ。本事業は、いまでは分譲マンションに続く国内事業の第2の柱に成長している。また、こうした事業を単なる不動産の流動化で終わらせないために、マリモ地方創生リート投資法人を立ち上げて、東京証券取引所不動産投資信託証券市場に上場させた。地方戦略を実践してきたマリモならではの日本強靭化計画と言えるだろう。他にも、2014年3月に賃貸マンション事業、7月に戸建事業を開始するなど、深川は次々と改革の手腕を発揮していった。

不動産専業から脱却して、
ソーシャルビジネスカンパニーへ

深川の改革は、さらに続く。2015年8月には、マリモホールディングスを設立。翌年11月から純粋持株会社としてグループ経営を担い、持株会社制へと移行した。

「構造改革を進めるなかで、“もっとスピード感をもって事業を多角化できるよう、フレキシブルで自由度の高い会社組織に変えたい”という想いが強くなり、ホールディングス制を導入することを決断しました。そして、新たな事業を模索すると同時に、あらためて企業のあり方について検討を重ね、“社会課題の解決を目的としたビジネスに取り組む”という目標を立てました」

この言葉にもあるとおり、“利他と感謝”を理念に掲げるマリモホールディングスにとって、「社会課題の解決」は今後のグループの発展を牽引するものだという。

「もちろん、利益を追求するビジネスを否定する考えはありませんし、当社は今後もビジネスを推進していきます。ただし、その利益を社会課題の解決のために再投資していくことで、ソーシャルビジネスの推進も加速していきたいと考えています。他を利することを喜びとする心をもって行動し、社会が抱える問題と真摯に向き合えば、私たちの事業はさらに価値のあるものになっていくことでしょう」

二宮尊徳の言葉にも、「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」とある。稲盛和夫の「両極端を併せもつ」とともに、深川が胸に刻み込んでいる言葉だ。

どちらの言葉も、すべてはバランスが大事だと教えてくれている。

2020年7月、深川は「マリモ・アクティビティ・ポートフォリオ(MAP)」を策定した。

「社会に必要とされる企業であり続けるために、私たちは事業のポートフォリオとして“2030年にソーシャルとビジネスの割合が50:50で共存する会社”を目指します。2020年には、創業50周年を迎えました。次の10年では、地球環境・貧困・災害・高齢化・児童福祉・人種差別といった社会課題の解決を新たな経営の視点に掲げ、収益性と社会性のバランスがとれた“ソーシャルビジネスカンパニー”へと変貌していきます」

分譲マンションデベロッパーとして経営のバトンを受け取り、リーマンショックを経て不動産総合デベロッパーへ、そして2030年には収益性と社会性の“バランス”がとれたソーシャルビジネスカンパニーへ。創業者である父から“バランス感覚”を買われて後継指名を受けた男の挑戦は続く。

株式会社マリモホールディングス 代表取締役 深川 真

「ただ儲けるだけのビジネスでは、
やがて社会から淘汰されていく。
“企業が利益を出すことと社会に還元することが
バランスしている状態”というのが、
実は企業の存続にとって非常に重要」

株式会社マリモホールディングス

本社/〒733-0821 広島県広島市西区庚午北1丁目17-23

URL/https://marimo-hd.co.jp/

従業員数/538名(2021年11月1日時点)

株式会社マリモホールディングス 代表取締役 深川 真

1973年、広島県生まれ。1995年3月広島修道大学商学部卒。1994年、大学在学中に父が創業した株式会社マリモに入社。1999年取締役就任。2000年に後継指名を受け、社長室長の傍ら、住宅流通事業部長、調査仕入部長を歴任。2007年、マリモの代表取締役社長に就任。2015年、マリモホールディングスを設立して現職に。グループ会社13社を擁し国内外で事業展開。持株会社としてマリモグループの経営基盤を担うことで環境変化に迅速に対応し、企業価値の向上を図っている。

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Text by Kiyoto Kuniryo|
Photographs by Shuji Goto|
Edit by Akio Takashiro

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