ビジネス

2021.10.20 08:00

ビリオネアランキング初登場。弁護士サービスを変えた「先読み想像力」


しかし弁護士の世界を取り巻く「伝統」は、想像以上の分厚さだった。登録は無料なうえ、すでに2000年に弁護士の広告が解禁され、制約は無くなっているにもかかわらず、それでも弁護士の登録者数がなかなか集まらないのだ。弁護士を往訪し、1時間かけてサービスを丁寧に説明し登録してもらう採算度外視のやり方で地道に取り組んだ。

こうして、Webサイトのオープンに漕ぎ着けても、依頼者になるユーザーのサイト訪問数はわずかだった。さらに、依頼者とマッチングさせ弁護士から報酬を取ることは、弁護士法により罰則付きで禁止されていた。持続的に事業を運営していくには、法的な規制も乗り越える必要があった。

「これは長期戦になると腹をくくりました。社会的価値があれば必ず、ビジネスメリットが後から付いて来る。遅かれ早かれ、時代は絶対に変わると信じていました」

時間はかかったが、先行者優位性は確かにあった。弁護士の登録数とユーザー数は少しずつ増えていき、サービスを通じて弁護士への依頼に至ったユーザーから「感動した」とサイトにお礼や喜びのメッセージが毎日のように届くようになった。サービスは軌道に乗り、弁護士ドットコムは、2014年に東京証券取引所マザーズ市場に上場を果たす。


法律の相談をしたい会員と弁護士をつなぐプラットフォーム。「みんなの法律相談」を通じて弁護士に相談できる。1カ月で9000件を超える相談がある。(2021年6月時点)

「時代を読んで、ビジネスを仕掛けるのが好きなのです。待つ時間は長くても、社会が気づいてくれて、着々と進んでいくので楽しいです」

誰もが、時代の流れを先読みしようとしているはずだが、解像度を高く、正確に言い当てられる人は滅多にいない。元榮の時代の先読みは、何から生まれているのだろうか。

「まず一人の時間を作ること。先読みは空想から生まれ、熟成させ解像度を高めて現実に落とし込むんです。一人になるため会社に行かないようにしていました。ずっとカフェにいます。そうしないと自分なりの先読みが出てこない。孫正義さんは300年先を読めと言いましたが、私はあえて10億年先を考えています。地球に何もない無機質な星。それも現実の一つとして考えられるように」


もとえ・たいちろう◎慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、旧司法試験に合格。大手法律事務所に入所し企業法務を担当。2005年に退所し独立、弁護士ドットコムならびに法律事務所オーセンスを創業する。2014年に弁護士として初となる東証マザーズに上場。現在は千葉県選出の参議院議員、財務大臣政務官としてデジタル政策などに携わる。

文=井上榛香 写真=ヤン・ブース イラストレーション=尾黒ケンジ

この記事は 「Forbes JAPAN No.084 2021年8月号(2021/6/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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