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最先端の経済誌「Forbes JAPAN」の記事紹介

弁護士ドットコム創業者の元榮太一郎

空想のイメージを現実のものに。先に光が見えたら、耐えること、待つことはいとわない。業界を変えた男は、自身の成功すら「読んで」いたのかもしれない。


大学2年生の元榮太一郎は途方に暮れた。車で物損事故を起こしてしまい、保険会社の請求にどう対処して良いか分からなかったのだ。任意保険に加入していない時の事故で、その額は学生には厳しい金額だったという。1カ月の間、悶々と悩み、塞ぎ込む状態だった。元榮を助けたのは、母の助言による弁護士への相談だった。「恐る恐る横浜の法律相談所に行き、そこで色々と教えてもらいました」

問題は解決へ向かうことになるが、このことが元榮の起業から成功への大きな要因のひとつになっている。

「あの時の私のように、どうしたら良いか分からなく困っている方は大勢いると思うんです。解決への糸口すら見つからない。しかし、いまはネットの時代です」

検索で情報を得る時代にマッチし、社会の役に立つサービスを作る。大学を卒業し弁護士として活躍していた元榮は、この発想が確信となるや居ても立っても居られず、1週間後に退職届けを出し3カ月後に起業した。

元榮は、法律相談ポータルサイト『弁護士ドットコム』やハンコ不要の電子契約サービス『クラウドサイン』などを生みだした。そして、Forbes ASIAの発表する日本のビリオネアランキングに初めてランクインした。自身にとって、“ビリオネア”は漫画の世界のような話だという。ランク入りに驚くこともなく、人生はいろんなことがあるものだ、と冷静だ。

「自分のリミッターを取っ払って、あらゆる可能性を想像することを大事にしてきました。常識に縛られないイノベーションや新しい社会的価値は、いつも常識の向こうにありますから」

常識を疑う姿勢を育てたのは、少年時代の原体験もある。1989年の夏、中学2年生だった元榮は、父親の仕事の都合でドイツ・デュッセルドルフに移り住んだ。日本にはない文化の数々、移住の年に起きたベルリンの壁崩壊を目の当たりにした。

「世界には、想像もできないようなさまざまな常識がある。そして、長年守られてきた世界的な常識も破られることがあるというのが、ドイツで暮らすうちに、無意識レベルでどんどんインストールされました」

2001年、元榮は国内大手のアンダーソン・毛利法律事務所(現 アンダーソン・毛利・友常法律事務所)の弁護士としてキャリアをスタートさせた。数年後、あるIT企業の案件を担当した際に、インターネットが社会に溶け込んでいき、ビジネスがダイナミックに成長していくのを実感。そんなとき、あるサービスの比較サイトが目に留まり、その可能性の広がりに気づく。

当時の弁護士の間では「一見さんお断り」が基本。本来は困っている人の力になるべき弁護士に、紹介がなければ相談できない時代だった。しかし、いずれ依頼者側が弁護士を選ぶ時代が来る。そうすれば、弁護士業もサービス業化していくのではないか。依頼者と弁護士をつなぐサービスを構想し、2005年に弁護士ドットコムを創業した。

文=井上榛香 写真=ヤン・ブース イラストレーション=尾黒ケンジ

起業家

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