ビジネス

2021.10.19

デジタル社会を裏側から支える泥くさい汗

千葉孝浩は2017年11月、金融機関での口座開設や行政手続きなどで必要なKYC(本人確認)のデジタルサービスを手がけるTRUSTDOCKを創業。現在、デジタル身分証アプリや本人確認のAPI基盤、さらにBPOサービスを展開している。

犯罪収益移転防止法(犯収法)など各種法律に準拠した同社のサービスは、KYCにかかわる業務をワンストップかつ24時間365日対応で提供する利点が評価され、企業のデジタル化の加速を追い風に、顧客が増加している。

同社に2021年6月のシリーズBラウンドでリード投資をしたのが、南良平が所属するグロービス・キャピタル・パートナーズだ。なぜ南は、TRUSTDOCKに投資をしたのか。


南:初めてお会いしたのは、2018年10月のスタートアップ・カンファレンス「B Dash Camp」です。千葉さんのピッチを拝見して、面白い事業だと思いました。あのときKYCのオンライン市場はまだ黎明期。私は前職が金融機関だったこともあり、この分野への関心は高くて、将来、伸びそうだなと。その後、千葉さんから小まめに連絡をもらうようになりました。

千葉:あのころは本当にKYCの認知度が低くて、自分も知人には「何それ。空気(K)読めない(Y)千葉さん(C)の略ですか」とからかわれるくらいでした(笑)。犯収法の施行規則が改正(18年11月)されて、それまで書類の郵送が必要だった本人確認をオンラインで完結できるようになる前のことでしたから。

そうした事情もあって、当時はいろんな方々に積極的に会社の情報を送るようにしていたんです。いま振り返ると、皆さんに迷惑がられていたかもしれないけれど(笑)。

南:でも、そういうことを愚直にやり続けられるのは、千葉さんのすごいところですよね。千葉さんは事業構想を着実に実行できる人で、フットワークが軽く、手数が多く、泥くさくやりきることに長けている。

その後、21年1月のイベントで千葉さんのピッチをあらためて拝見したのですが、ヤフーなど、著名なサ ービスを展開する企業が導入し、明らかに事業が進展していた。コロナ禍でいろんな分野のデジタル化が進み、国のデジタル庁も創設が決まるなど市場環境もいい。飛躍に向けた準備のタイミングで、投資検討の話をさせていただきました。

千葉:今回の資金調達では、いろんな投資家の方から引き合いがありましたが、南さんは、事業計画に対する進捗や数字の話ではなく、僕たちが何を提供していて、何がバリューで、何の課題を解決しているかといった事業の「芯」のところをすごく熱心に質問してくれた。

僕らはどちらかというとプロダクトドリブンなチームで、経営メンバーも僕以外は全員エンジニア出身。しっかりと理解しようとしてくれて、この人に伴走してもらいたいと思いましたね。
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文=眞鍋 武 写真=平岩 亨

この記事は 「Forbes JAPAN No.084 2021年8月号(2021/6/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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