わたしのJAXA訪問記。道具を作ることで、人はまだ見ぬ世界へ足を伸ばす

三澤拡 (JAXA) 、マイク・エーブルソン (ポスタルコ デザイナー) 、丸山敬貴 (JAXA) ISSの模型内で無重力のポーズ

プロダクトデザイナーである「ポスタルコ」のマイク・エーブルソンさんのものづくりは、いつだって好奇心から始まる。そんな彼が最近気になっているのは宇宙船の中で着る服(船内服)のこと。

宇宙船という特殊な空間で宇宙飛行士(以下、飛行士)たちが自由に過ごせるために、服はどんなかたちであるべきだろう?

身体と宇宙がクロスするところ


「無重力空間で人間が着る船内服は、どう作られているのだろう」。今回の取材は、マイク・エーブルソンさんのそんな問いから始まった。

2000年にニューヨークで創業したポスタルコは、性別や年齢、国籍を問わず、誰もが使える普遍的なアイテムを手がけてきたブランド。東京に拠点を移してからも約20年にわたって、文房具や革製品を中心に、日本の職人や工房とコラボレーションしながら愛着の持てるモノだけをつくり続けている。

そんなポスタルコが近年力を入れているのが、ウェアラインだ。最大限の動きやすさを生み出すためのシャツやミニマルで機能的なジャケットなど、マイクさんは常に人体の構造を研究することで、人間を自由にするための服づくりを行っている。

マイクさんのトートバッグ
自己紹介も兼ねて、マイクさんがふたりにポスタルコのアイテムを紹介。橋梁の構造を応用してつくられた高い耐久性をもつトートバッグ。

でもマイクさん、どうして船内服に興味があるんですか?

「宇宙に行くのは、人類が初めて海を渡ったのと同じようなことだと思うんです。何が起きるかわからないし、戻ってこられないかもしれない。そういう意味で、宇宙以上に大変なところはないんじゃないかな。

ポスタルコの商品2つ
(左)人間工学に基づいて最大限の動きやすさを実現したシャツ。(右)無垢のアルミニウムから手作業で削り出してつくられた精密機器のようなボールペン。

でも、道具があることでそれが可能になるところがやっぱりおもしろい。

人々がまだ素足で暮らしていた時代、『鹿の皮を用いるのであれば、道に敷くのではなく、自分の足の裏を覆ったほうがよい』とブッダは言ったそうだけど、不完全な人間の身体に足りないものを足すことで、いろんなことが可能になる。

そうした身体の周りのことと、宇宙がクロスするところがおもしろいと思っています」。

船内服というのは、飛行士たちが国際宇宙ステーション(ISS)船内で着るための服だ。その船内服を管理するJAXA宇宙飛行士健康管理グループの職員であれば、マイクさんが興味のある「人間の周りのこと」について一緒に考えることができる。そこでマイクさんとともに、JAXA筑波宇宙センターを訪ねた。
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取材・文=宮本裕人 写真=上澤友香

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