国連人口基金(UNFPA)の「世界人口白書2021」によると、2021年の世界人口は、前年比8000万人増の78億7500万人。現在のペースで増加を続けると2050年には100億人を超える。
人口増加によって脅威となりつつあるのが、食料不足だ。国連世界食糧計画(WFP)は「2030年には8億人以上の人が十分な食料が得られなくなる」と発表している。特に、動物性タンパク質においては、国連食糧農業機関(FAO)が「2030年に需要と供給が逆転する」と試算している。
そこで、タンパク質危機への有効な対応として世界的に期待と注目が高まっているのが「培養肉」である。培養肉は代替肉の一種で、大豆など植物性原料を使って肉の食感に近づけたプラントベースミートとは違い、タンパク質を合成し人工的に作った食用肉だ。プラントベースミートは、数年前からハンバーガーチェーンがパティに使用し始め、最近ではスーパーの精肉コーナーでも見かけるようになったが、培養肉はまだまだ身近ではない。
ただ、大手コンサルティングファームのATカーニー社が2019年に発表したレポートでは、食肉市場における代替肉の割合は、2025年には10%、2040年には60%に拡大すると予想される。今後急速な拡大が予想される市場なのだ。
ビーフパティ1枚が4万5000円?
期待と成長が約束されたかのような培養肉市場だが、課題も残る。それが「コスト」だ。
2013年、オランダ・マーストリヒト大のマーク・ポスト教授が世界で初めて「培養肉のパティ」を使ったハンバーガーを発表したが、このときのパティ1枚当たりのコストは3000万円を超えていたと言われている。
その後、研究開発の発展により、2020年には4万5000円程度(Good Food Instituteの試算)まで下がったものの、それでも広く一般に手が届くような価格ではない。
培養肉の製造が高コストになってしまう理由は、培養に必要不可欠な「成長因子」にある。
成長因子とは、細胞を作る特殊な細胞である「幹細胞」の増殖や分化を促進する特殊なタンパク質。通常は、動物細胞や大腸菌、酵母などの遺伝子を組み替えたものを原料として合成されている。
ただ、元となる細胞の入手や遺伝子の組み替え、合成期間などのコストをふまえると、販売される成長因子の価格は1グラムあたり数億円になってしまう。そのため、培養肉の製造コストの約9割は成長因子が占めることとなる。
逆に言えば、成長因子のコストを低減することで、培養肉の価格を下げることにつながるのだ。