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2021.10.28

宇宙という特殊環境だからこそ、新たな好奇心が芽を出していく

写真:JAXA’s


為末:今のお話を伺うと、とても壮大な分野になりますよね。とすると、国が主導して行うべき活動のようにも思えます。

金子:GPSでいえば、日本でも独自の測位衛星を打ち上げていて、例えばビルの谷間など通常では測れない部分に関しても、精度よく測れるようになっています。おっしゃる通り、まだまだ国が、JAXAが主導していかなければいけない部分も多いと思っています。

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新豊洲Brilliaランニングスタジアムは、ラグビー選手やパラリンピック選手、スポーツ愛好家など、さまざまな人に利用されている。photo by Deportare Partners

為末:我々の世界で皮肉だなと思うのは、選手が夢中で競技に打ち込んで行ったら、結果的に社会の役に立っていたというところです。

社会の役に立とうと思ってスポーツを始める選手はそんなにいなくて、最初はヒーローになりたいとかもっと上手くなりたいという、個人的な夢や好奇心から出発する。そうしてある段階から社会を意識して貢献しようとするのですがそのタイミングで同時に義務感も覚えるようになるんですね、選手はある程度無邪気な方がいいのですが、義務感というのは無邪気と相性が悪くてその狭間で選手は思い悩みます。世の中なんか見ないで自分の好奇心に従いたいけど、一方で目標である最も大きな世界大会は世の中に見せる為に存在している。そんな矛盾の中で選手は少しずつ目的を見つけていきます。社会への還元は、スポーツが社会から必要とされ続けるためにはとても大事な側面で、今夏は特にアスリートたちもすごく実感したと思いますね。

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YouTube為末大学では、身体やスポーツを通じた人間理解をテーマに情報発信している。photo by Deportare Partners

金子:好奇心と社会性のバランスは、宇宙開発においてもとても重要ですね。

為末:スポーツのもっとも本質的な価値は、おそらく「坑道のカナリア」的なもの。生身の体で、「ここまでやるとどんなことになるか」をアスリートが確認する。それを社会に還元して、結果として社会がよりよくなっていくという循環ですね。それから、スポーツはとてもプリミティブなものなので、感情を揺さぶるパワーが強いんです。かつてヒトラーはそのパワーをプロパガンダに利用しましたから、スポーツそのものに善悪があるわけではない。ただし、良い方向に使えば、世界平和や外交上の何か、あるいは教育の役に立ったりもする。その点に選手が自覚的になれるかどうかが、とても大事だと思っています。

金子:宇宙開発の源には知的好奇心はもちろんありますが、JAXAの使命は、あくまで社会に、国民に貢献すること。革新的衛星技術実証プログラムによって、どれだけ社会に貢献できるのかを伝えるのが、私の仕事でもあるんです。成果が社会に還元され、国民に伝えられる。そうやって認知が広まることによってまた新たなプレイヤーが参加する、という仕組みになっていると思います。

為末:正の循環が回っていく感じ。

金子:そうですね。ただし、チャレンジングな技術は入れていきたいですね。

為末:面白いものを混ぜてみると。

金子:まさしく。今後の発展性を考えていますね。

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小型実証衛星2号機(RAISE-2)の試験の様子
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取材・文=村岡俊也

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