ビジネス

2021.10.18

自分の軸ができたなら、あとは、解き放つだけだ

ローランド代表取締役社長、三木純一 


変わったのは、学生のときにバイクと出会ってからだ。

「エンジンをばらしてチューニングするなど、自分なりのバイクをつくって乗ることにハマりました。そこからは人の目が気にならなくなりました。自分の軸ができて、それに従って生きればいいと」

バイクは思い入れが強すぎて仕事にできないと考え、就職先は電子楽器のローランドを選んだ。製造や修理、基礎研究などの現場を経験した後、電子ピアノ開発部門リーダーに抜擢。そこでも社内の空気に流されず、自分軸を貫く。当時は技術ドライブの開発が主流だったが、マーケットインで鍵盤タッチやデザイン性を重視した電子ピアノ「HP-2700」を開発して、ヒットに導いたのだ。

社長になり、社員に送ったメッセージは、「unleash(アンリーシュ)」。首についた鎖から自分を解き放て、という意味だ。

「典型的な大企業病で、会議では『社長の意図は何か』と議論していました。人の顔色をうかがうのではなく、一人ひとりが自分の軸を大切にしないと組織は活性化しない」

掛け声をかけただけではない。開発者に限らず誰でも投稿できる社内掲示板「アイデアの種」を設置して、アイデアをボトムアップで吸い上げる仕組みをつくった。大ヒットした電子管楽器「エアロフォン」は、この掲示板から生まれた。

「徐々に変わってきたとは思います。ただ、かつてのカルチャーが完全に払しょくされたわけではない。まだこれからです」

21年第一四半期は純利益34億円で、前年同期比5.2倍に。通期業績も上方修正で、組織改革の成果があらわれているように見えるが、三木は辛口のジャッジだ。周囲からどう見えるのかは関係ない。評価は、あくまでも自分軸のようだ。


みき・じゅんいち◎1955年、大阪府生まれ。77年、立命館大学理工学部卒業後、ローランド入社。プロダクトリーダーとして電子ピアノなどのヒット商品を送り出し、94年に開発部門担当取締役へ。一貫して製品部門に携わったのち、2013年4月より現職。

文=村上 敬 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN No.084 2021年8月号(2021/6/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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