ビジネス

2021.10.16 08:00

脱炭素の「副作用」も。原油価格急上昇はいつまで続く?


カーボンニュートラルの大きな副作用


米バイデン政権がぶち上げた「脱炭素」も生産の伸びを抑える。気候変動対策などを盛り込んだ3兆5000ドルの歳出案をめぐっては、民主党内の意見調整が難航。規模の縮小が取りざたされるなど、成立に向けて波乱含みの状態が続く。そのあおりで、電気自動車の充填拠点の整備などを含む1兆ドル規模のインフラ法案も宙に浮いた格好だ。

それでも、同政権の「グリーンエネルギー革命」を目指す取り組みに大きな変化はないだろう。新たなシェールオイル開発には強い逆風が吹く。「オイルの掘削を続けるのは“脱炭素”ムードの高まりに反する行為でもあり、リグの稼働数はなかなか元の水準に戻りにくい」(楽天証券経済研究所の吉田哲コモディティアナリスト)。

楽天証券経済研究所の吉田氏は米国の石油戦略備蓄の減少傾向にも着目する。戦略備蓄とは海外から原油や石油製品の輸入ができなくなったり、自国内で生産できなくなったりするといった供給面の混乱に備えたストックのことだ。

トランプ政権時代にもコロナ感染の拡大が本格化した昨年4~7月を除いて減少が続いた。その背景には、他国に頼らず、自国のシェール業者などの生産で需要を賄おうという前大統領の“アメリカファースト”の意向があったとみられる。

バイデン政権下でも備蓄は漸減。10月1日時点では日量6億1777万バレルと政権発足時の今年1月から3%あまり減った。「石油には頼らないという政権の姿勢を反映した動き」というのが吉田氏の見立てだ。

「脱炭素」の流れが強まり、炭鉱投資の機運が後退。一方で、経済正常化に向けた動きが出始め、火力電力用の需要は急速に膨らむ。燃料を石炭に依存するインドや中国は電力危機に直面。需給逼迫で石炭価格はハネ上がった。石炭不足は環境負荷の少ない液化天然ガス(LNG)への燃料切り替えの動きに拍車をかけている。

欧州での生産設備のトラブルなどの影響もあって、天然ガスの価格も世界的に急上昇。それが石油の代替需要を後押しし、原油相場を下支えする。世界的な「カーボンニュートラル」への潮流は皮肉にもエネルギーを中心としたコモディディ価格上昇というコストプッシュインフレのリスクを顕在化させている。

欧米ではインフレが個人消費の冷え込みにつながり、スタグフレーション(景気後退下の物価上昇)に陥る懸念もくすぶる。中国の不動産会社、恒大集団の経営危機も無視できない。このため、WTI先物がすんなりと100ドルを突破するシナリオは考えにくいところ。だが、供給面での制約は大きく、原油価格は高値圏で推移しそうだ。

連載 : 足で稼ぐ大学教員が読む経済
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文=松崎泰弘

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