ビジネス

2021.10.20

場所とアイデアの掛け算。西武HDとR.projectがキャンプ事業で打って出る

西武HD代表取締役社長 後藤高志(左)、R.project 代表取締役 丹埜倫(右)


ハードアセット×ソフトコンテンツの勝機


出資者の西武造園は、企業知名度は高く無いものの、手がける「仕事」は多くの人が知っているだろう。直近では渋谷・宮下公園のリニューアル、また、昭和記念公園、幕張海浜公園や、野川公園など関東近県の60を超える公園施設に携わり、大阪府高槻市安満遺跡公園、京都亀岡運動公園に、沖縄宜野湾海浜公園など、全国81カ所に渡って設営、運営に携わる。

他方、R.projectは2006年創業という若い会社だ。千代田区の旧臨海学園の合宿施設再生からスタートし、2014年からキャンプ事業へ参入。現在ではアウトドアの企画・運営、関連する物販・EC事業などに拡大。アウトドア関連のサービスに多くの知見を有する。キャンプ場予約サイト「なっぷ」などは多くのキャンパーに知られるところだ。

R.project代表の丹埜倫(たんの ろん)はアウトドア事業関連のサービスを組み合わせるOX(アウトドア・トランスフォーメーション)を掲げており、さらにデジタル化を進めたDXでサービス全体の利便性を高めようとしている。

西武HDは、西武造園の得意とする公園だけでなく、箱根や軽井沢をはじめとした自社の持つ私有地も活用する予定だ。「公園」と「私有地」に分け、それぞれに合ったソフトを提供する。今回の提携を機に、まずアウトドアへの入り口となる公園でのサービスに取り組み、順次、エリアを拡大していく。「キャンプビギナーの方にも、まずアウトドアの魅力を知ってもらいたい」という後藤と丹埜の方針だ。

丹埜は、「アウトドアというのは、時々行くレジャーではない。週末には公園、月に何回かはキャンプ。そして時にはワーケーションで遠出するといった毎日がその候補になる」という発想だ。そのため、西武造園が手がける多数の公園がアウトドアの「入り口」になるということだ。

西武HDが示す共創基盤

共創基盤の図解

まず、今年度中に公園を舞台にサービスがスタート。23年までには西武グループ私有地第1号のキャンプ場がスタートする予定だ。2030年には西武グループ関連施設で年間100万人の利用者を見込んでいる。「公園と私有地は同時進行。軽井沢や箱根は有力候補となる。バランスよく事業化していき、2030年には国内のアウトドア関連で1兆円市場を見込んでいる」と後藤は期待をあらわにする。

アウトドアを生活文化に


西武HDは2020年、4年越しで取り組んだ所沢駅のリニューアルを終えた。加えて、2021年で完了した西武球場のボールパーク化、「刀」とともに挑んだ西武園ゆうえんちのリニューアル、そして、今回のアセットを生かした新事業。不動産と鉄道という地盤=生活圏を土台にしたこれらの試みは、近しい人と過ごす幸せな時間や環境のインフラ化だ。今回の事業で、アウトドアを生活文化にまで浸透させたいと後藤は熱を込める。

西武HDの業績は厳しい状態が続いている。コロナ禍の落ち着きとともに回復の傾向が見られるも、直接的な打撃を被ったホテル・レジャー関連での回復は鈍い。プリンスホテルを分離する噂も出てくる状況にある。再生請負人の異名をとり、2004年の経営危機から西武グループを現在の姿に復活させた後藤の大きな一手がどう貢献するか見てみたい。

文=坂元こうじ

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