一方、南シナ海と言えば、誰しも頭に浮かぶのは中国の存在だ。南シナ海の海域には従来、米国に加えて中国、日本、豪州などの潜水艦が活動していると言われてきた。南シナ海の場合、潜水艦の保有隻数や配備の状況から、米原潜が5隻前後、中国原潜が3隻前後、それぞれ活動していると推測する専門家もいる。米国メディアなどによれば、中国外務省の趙立堅報道官は8日の定例記者会見で、米国が事件の場所や航行の意図、衝突した物体の詳細などを明らかにするよう迫った。伊藤氏は「中国側の様子を見る限り、コネティカットの衝突と中国は無関係のようだ」と語る。
ただ、伊藤氏は「今回は図らずも、シーウルフ級という大型原潜が南シナ海で航行している事実が明らかになった。それ自体、中国を抑止する戦略的なメッセージだ」と語る。米国メディアによれば、趙報道官は8日の会見で「米国は南シナ海で波風を立てている。これが事故の原因だ」と批判。最近、米英豪3カ国が創設した新たな安全保障の枠組み「AUKUS」を通じたオーストラリアへの原潜提供についても「地域の安全保障上のリスクを増大させる」とかみついた。
防衛省幹部によれば、原潜と通常動力型潜水艦では、全く作戦の立て方が異なる。各国が運用する通常動力型潜水艦の最高速度は、いずれも20ノット(約37キロ)程度だが、「最高速度で航行したら、バッテリーの消耗が激しい。巡航時はせいぜい5~6ノット(約9~11キロ)くらい。自転車くらいのスピードだ」という。ディーゼルエンジンを回して充電するため、外気を取り入れるよう水面近くに浮上する必要も出てくる。
これに対し、原潜は常時、30ノット(約56キロ)以上の速度が出る。充電の必要もない。この関係者は「オーストラリアの攻撃原潜は西太平洋と東インド洋で広域哨戒が可能になるだろう。中国海軍には深刻な脅威だ」と語る。伊藤氏も「AUKUSは、中国に対して太平洋で好き勝手なことはさせないという強力なメッセージだ」と指摘する。
コネティカットの事故は、中国に対して将来起きうる「AUKUS包囲網」を強烈に印象づけるきっかけになったのかもしれない。
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