那須に新たなリビングラボ「ナスコンバレー」が誕生
「新産業の共創」とひと口に言っても、SUNDREDが目指すのは、単に新産業のアイディアを生み出すだけでなく、新たなエコシステムを構築し、ある地域で社会実装した後に他の地域へ横展開していくことだ。
そのために必要な要素として、留目氏は、「プロジェクト」、「プログラム」、「コミュニティ」の3つを挙げている。なかでも、コミュニティは重要だ。面白いアイディアが生まれ、それを実現する技術があったとしても、コミュニティがなければ社会実装は実現しない。
実際のところ、ドローンは〇〇市で、遠隔診療は〇〇町でというように、オープンイノベーションの実証実験はさまざまな場所でバラバラに行われているのが現状である。
そこで、SUNDREDは今年の10月、日本駐車場開発、デジタルシフト、ライフルの3社とともに、「ナスコンバレー協議会」を立ち上げることになった。
ナスコンバレーとは、日本駐車場開発グループの藤和那須リゾートが那須に所有する、東京ドーム170個分もの広大な土地等を実証フィールドにしながら、那須地域の特性にあった形でイノベーションの社会実装を進めていくリビングラボだ。
これまで各地で行われてきた実証実験をナスコンバレーに集約させることで、プロジェクトの横のつながりと、それをきっかけとした新たなイノベーションが生まれる効果が期待される。SUNDREDが取り組んでいる新産業プロジェクトのいくつかもナスコンバレーへ持ち込む予定だ。
ピザ宅配の実証実験
この実証実験の舞台を那須地域に置いたのは、広大な土地があったからだけではない。那須地域が、那須町、那須塩原市、大田原市という3つの基礎自治体から成り立っていることもキーである。
実証実験のフィールドが1つの基礎自治体だと、限定された課題にスコープしてしまい、本質的な産業レベルの課題にまで到達できず汎用性が担保されにくい。反対にエリアを広げすぎてしまうと課題の共感軸がブレたり、現場のリアリティが薄まりすぎてしまう。
那須地域は、リゾート地として人気のある那須町、交通の拠点である那須塩原駅を有する那須塩原市、複数の工業団地を有する田園工業都市の大田原市という、バリエーションのある3つの自治体から成り立っているため、共感を得やすい適切な課題を設定することができ、ソリューションも横展開しやすいのだ。
実際に、今年9月に行ったナスコンバレーのプレオープンイベントでは、参加した約20の企業から「待望していた」と好評だった。
ピザ宅配の実証実験
経産省も大きな期待を寄せる
ナスコンバレーを含む新産業共創プロジェクトに期待を寄せているのは、企業ばかりではない。
行政も大きな関心を寄せており、経済産業省関東経済産業局は2021年度にSUNDREDと連携した新事業「越境人材プロジェクト」により、新産業の共創を推し進めていくこととなった。
当局は、約5年前から他局に先駆けてオープンイノベーションを推進する専門部隊を設置したほど、新産業共創に積極的な組織である。これまでに、大企業と中小企業や中小企業とベンチャー企業など、さまざまなマッチングを図ってきた。しかし、コロナ禍で急速に市場が変容する今、個社と個社のマッチングだけではなく、社会課題の解決がビジネスニーズであるという視座が必要となっている。