分断や違いを乗り越えろ。エンタメが持つこれからの可能性


──オンラインとオフライン、実際に見てくれる人がその場にいるのといないのとでは、エンタメの届け方は違ってくるでしょうか? 

菊池:お客さんがその場にいるのといないのとでは何かが違う、別物になってしまうかもしれないというのは、今回のオリンピックやパラリンピックを見ていて感じたことです。

サッカーで言えば、イギリスのプレミアリーグが観客を全部入れ始めたそうですが、それを見ていると、やっぱり観客の盛り上がりが全然違う。そういう現場の熱狂というのかな、エンターテインメントのコアな熱というのか、そういうものをなくしてはダメなのかもしれないと思いました。

武井:僕は今回のオリンピック・パラリンピックで現場レポートにも入らせてもらったんですが、そういう「熱を生む現場」を直接観客に見てもらえなかったという意味ではすごく残念でした。

50年前の東京オリンピックには、渦巻きのような熱があった。今回だって、もしもコロナがなければ、世界中の人が東京にやってきて、街のあちこちで感動や体験を共有しあうことで大きな熱が生まれたはずなんです。その機会が失われたことは、僕たちにとってすごく大きな損失だったのではないかって。

菊地:一時期、スポーツや映画、音楽などのエンタメは「不要不急」と言われたじゃないですか。僕はそれがとても辛かったですね。我々の「心が動く瞬間」が、生活のなかからどんどん消えていくような気がして。

武井:確かに「不急」ではあるかもしれないけれど、「不要」ではないですよね。絶対に「必要」だし、その必要をつくっていくのが僕らの仕事だから。

どんな業界であろうと、みんな自分が生きていくための手段として仕事を選んでいて、そのなかで最善の努力をしている。なのにコロナ禍では、「あの業界はいいよな」「子供の運動会は中止したのに、オリンピックはやるのか」って、自分とは違う分野への不満を言葉でぶつけ合って、お互いの生きる場所を否定し合っている気がするんです。それがとても苦しかった。

菊地:本来エンターテインメントが持つ力って、人々の分断や違いを乗り越えて、一緒に感動したり共感したりできるものであるはずなのに、その場をつくろうとすることが分断の原因になってしまった。これほど悲しいことはないですよね。

僕らにできることは、やはり真摯に仕事に向き合い続けることしかないんだと思うんです。喜怒哀楽、どんな感情でもいいから、作品で人の心を動かすことが役割だと思っているので、地道に作り続けていかなければと、改めて感じました。

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構成=松崎美和子 写真=今井裕治

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