世界は誰かの「仕事」でできている。金融教育に欠かせない視点とは

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子どもたちに将来やってみたい仕事を聞いてみると、かなり多くの職業が挙がってきた。第一生命が小学生・中学生・高校生の計3000人を対象に行った「大人になったらなりたいもの」のアンケート調査結果によれば、男子では小中高全てでユーチューバーが上位に入っており、それ以外にもプログラマーなど筆者が子どもの頃にはなかった職種も散見されるようになった。

ランキング上位に顔を並べる職業で筆者の知らないものはなかったが、まだまだ知られていない職業も世の中にはたくさんあるだろう。世の中はさまざまな仕事の上で成り立っているのだ。

「1人だけで生きていける」は間違い


ここまで書いてきた内容は、大人たちからすればどれも当たり前のことで、こんなことが金融教育なのかと思うかもしれない。しかし、意外と理解していない大人も多いのではないかと思うことも多い。

一般的に「勝ち組」とされるような、高学歴で大企業や外資系金融機関に勤めていたり、自身で会社を経営したりしているような人たちからよく聞くのは、「国は信頼できないから1人で生きていけるようにすべき」という発言だ。

自分では変えようのない外的要因があまりにも多い時代にあっては、このような考えを持って、自ら研鑽をすることで自己防衛していくという考え方は正しい部分もある。しかし、やはりそこに抜け落ちている視点は、この世界はいろいろな人たちの仕事の上に成り立っていて、その中で自分は生きている、生かされているということだろう。

この視点が欠けると、自己責任論者に陥ってしまうことになる。コロナ禍は通常の不況のように世の中全体の景気が減速するのではなく、飲食業や観光・宿泊業など一部の業種に大きな影響を与えた。その結果、特に影響を受けなかった一部の人たちからは、給付金や各種の支援策に対して否定的な意見が発せられることになった。自分たちでその仕事を選んだのだから、税金で救ける必要はないという考えなのだろう。

いまは自分のビジネスがうまくいっているのかもしれないが、それは自社の商品やサービスにお金を払ってくれる顧客がいるからであり、普段の生活も誰かが仕事をしてくれているから不便なこともなく送れているのだ。

商品を購入したりサービスを受けたりという時にお金を払うのは、ただ対価としてお金を払っているからだと思う人も多いだろう。しかし、子どもたちが言っていたのは「ありがとう」という気持ちとともにお金を払うということだった。

自分はお金を払って商品を購入したりサービスを受けたりしているが、商品のつくり手やサービスの提供者に感謝の思いとともにお金を渡す。とても素晴らしい考え方ではないだろうか? この大切なことを子どもたちから教えられたのだ。

金融教育をするというと、未だに投資教育をすると勘違いする親たちも多いが、そのベースには「投資は危ない」という考えがあるため、結果としてお金の勉強は胡散臭い、子どもには不要と考えて、お金について学ぶ機会を遠ざけてしまうことがある。

しかし、実際にはお金がどのようにして社会を回っているのか、そして自分がその中でどのような役割を果たしてお金をもらったり、また使ったりをするのか。そのことを学んでいくなかで、自分が世の中に生かされていることや、いろいろな人たちの仕事の上で社会が成り立っていることをきちんと理解できるのだ。

金融教育とは決して投資教育ではなく、お金を起点にして社会の仕組みを学んでいくものだと理解してもらいたい。

連載:0歳からの「お金の話」
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文=森永康平

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