PR発想で事業も拡大
そんな、すべてが順風満帆に思われたときに、新型コロナに見舞われた。
活況を支えていた海外からの観光客、修学旅行などの国内の観光客も激減し、旅館は壊滅的な打撃を受けた。年間で3億円あった売上は、3分の1以下にまで落ち込んだ。
それでも小野さんは前を向いていた。「嵐が過ぎ去るのを大人しく待つのではなく、攻めに打って出る」と。
2020年3月から期間限定で初めたのが、休校中の小中学生を旅館で預かるサービス「旅館で寺子屋」。「きっかけはパートの方からの電話でした。『コロナで休校になったので、仕事に行けない』という。私たちにできることがあるのではないかという一心で始めました」
地元の八百屋から飲食店の休業などで行き場を失った野菜を仕入れ、昼食として板前が弁当にして提供した。子どもたちの世話は、仕事がなくなったツアー会社に協力を依頼した。利用料は実費500円とイベント保険料300円のみ。
このサービスがすごいのは、小野さんがわずか2日で企画から協力体制の構築までを行ったことだ。そして、すぐにプレスリリースを打ったこともポイントだ。「メディアへのPRはタイミングが重要」であることを、これまでのPR経験で痛感していたのだろう。
目論見通りメディアから注目され、テレビ2社、新聞1社が取り上げた。広報効果も大きく、寺子屋の定員は一瞬で埋まった。さらに、思わぬ副次的効果も生み出した。「行政や公的機関などから『コロナ禍の中でも、綿善は挑戦的な取り組みをしている』と認知されるようになりました。おかげで、新しい取り組みへの協力が格段に得やすくなったのです」
それを活かし、京都市などの協力を得て2021年5月に立ち上げたのが「おやどす京都プロジェクト」だ。
京都の5軒の旅館が共同で、京都観光を盛り上げようという取り組みだ。夏休み前の6月にスタートした第2弾では、修学旅行に行けなかった学生たちとその家族を対象に、特別割引プランを用意した。
プランには、京都市観光協会やMKタクシーの協力で、観光施設の割引パスポートやタクシー利用者向けの宿泊割引などの特典も付いている。さらに、旅館の写真や御朱印帳を並べて冊子にできる「夏休みの自由研究お手伝いキット」も含まれる。