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2021.10.11

3億の売上がコロナ禍で3分の1に。「若女将」のPR力が京都の老舗旅館を救う?

京都の台所・錦市場から徒歩2分の好立地にある「綿善旅館」

天保元年(1830年)創業で190年以上の歴史を誇る、京都でも屈指の老舗旅館「綿善旅館」。人気観光地である京都市の中心に位置し、全27室・従業員は約20人のこじんまりとした旅館だ。

経営の陣頭指揮を執るのは、若女将の小野雅世さん。立命館大学を卒業後、三井住友銀行に総合職として入行。結婚を機に退職後専業主婦を経て、2011年から家業である綿善旅館の舵取りを担っている。

小野さんは、採用難やコロナ禍での減益に見舞われながらも、PRの力でその難局を切り抜けてきた。今回は彼女の「若女将流」PR戦略を探ってみよう。

専業主婦から「若女将」へ


いまや新聞、テレビのニュース番組や情報番組、さらにはバラエティ番組でも取り上げられる綿善旅館。その背景には小野さんによる「大変革」があった。まずはその内容から紹介したい。

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「綿善旅館」若女将の小野雅世さん

小野さんは若女将に就任した際、従業員に向けて「綿善を日本一の旅館にする!」と宣言した。「でも、主婦あがりの自分には『そんなことはできるわけがない』と笑われてしまったんです」と振り返る。このとき「絶対に改革しなくてはならない」と、気持ちに火が付いた。

ただ、手弁当ではなかなかうまくいかなかった。そこで、2015年に日本旅館協会の生産性向上モデル事業に応募。これをきっかけに改革は本格化した。同事業は、同年の「サービス業の生産性向上協議会」で当時の安倍晋三首相が、宿泊業など6業種に生産性向上への取り組みを要請したことを受けて発足したものである。

翌年からは、日本生産性本部のコンサルティングを受けながら立て直しを図った。生産性工場に向けて彼女が行った改革は主に3つ。社内の情報共有の徹底、ITの活用、人事制度改革である。

最初に着手したのが、従業員への的確な情報共有。朝礼の議事録を作成し、従業員専用エレベータに掲示した。それを全従業員が毎日確認することも義務付けた。
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文=下矢一良

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