三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、 MUFG)の亀澤宏規は、2021年統合報告書の中に、この強い一文を記した。金融業界が置かれている環境は厳しい。亀澤の記した意図は、危機感の共有だけではないはずだ。
同社はForbes JAPAN11月号(9月25日発売)の大特集「最強のサステナブル企業100社」において、長期コミットメント部門でランクインした。これは、長期にわたって成長を持続できる経営層の改革実行力などをスコア化したものだ。金融業界の激変期に、メガバンクのトップはどう動いているのか。
4月から始まった同社の新たな中期経営計画には、環境・社会課題の優先10課題が設定され、デジタルとサステナビリティ、そしてカルチャー改革の3本柱が変革の原動力となる。2020年にメガバンク初の理系出身のトップに抜てきされた亀澤は、「俯瞰する力」で組織を変えようとしている。
社員17万人、国内537拠点・海外1,914拠点を束ね、既存の組織を変革するには重責が伴う。しかし、亀澤は、自身の歩んできた経験を例に「たまたま自分が役をもらってやっている」と表現し、冷静に重責と向き合う。こうした物事を客観視する「俯瞰力」は、亀澤が長年学んできた “数学の素養” がつくり上げたものだ。東京大学大学院数学科で研究してきた整数論は、数の世界の本質や構造を読み解く学問。10代の頃から数学の定石、「物事を一般化し、本質を探る」ことを学んできた亀澤にとって、トップとして何をすべきか見えていた。
亀澤はまず、「何のために我々はこの仕事をしているのか?」と原点に戻り、会社の理念を見直した。
「演繹法と帰納法によるアプローチを組み合わせて、会社の長期ビジョンをつくっていこう」。亀澤は、数学的思考の基本は演繹法と考えている。銀行機能や役割の定義など論理的に存在意義や目的を探る。一方で、帰納法なアプローチを使い、目の前の現象や顧客や社会で何が起きているかを分析する。「このふたつのアプローチを組み合わせて議論し、本質を突き止めていく」と亀澤は説明する。
この思考法を使って導き出される結論は、前提条件が正しければ決して揺らぐことがないという。そして、導かれた結論が、「世界が進むチカラになる。」という同社の存在意義(パーパス)だ。顧客や社員、株主、投資家、社会全体が生活の在り方も変化を余儀なくされ、進み方や方向に迷いがあるいまこそ、MUFGが前へ進む人々のチカラになる。
揺らぎのない理念が定まった。そして、次に取り組む課題は組織変革だった。
対話を重んじて得た結果
社員一人ひとりが組織を構成する一員として、多様な意見を自由に交わすことのできる環境。そうした環境が実現できれば、組織をより強じんなものへと変革できると考えた。「そのために必要な要素はインクルージョンとダイバーシティ」とし、このふたつの要素を重視した「共感しあう=エンゲージメント組織」づくりをはじめた。