社長は、根回しをされる側になることもある。
「そのときは、根回ししてくる相手に的確な質問を浴びせることが自分の役割です。超大企業になったら難しいのかもしれませんが、まだ、私が会社のすべてを理解できる規模にとどまっていると思う」
グループ全体で従業員数が1万6000人を超えた現在。高原はリーダーの理想像をこう語る。
「いないと困るけど、普段は意識しない『空気』のような存在。畏怖されるリーダーや敬愛されるリーダーというのはその手前のレベルで、究極ではないと思うんです。社員の立場に立っても、社長から言われて仕事をやったと思うより、自分でゼロから考えて成果を出したと思うほうが活性化します」だから空気となり、根回しをする。誰が共振を仕掛けたかは、はっきりと見えなくていい。
揺らがない思いを言葉にし、伝え、それでも伝わらなければ別の言葉や表現を選び、共振を起こし、共感を生む。この経営手法には今後、一層こだわっていくという。
「いずれAIが経営者の代わりになるともいわれますが、AIは他者に『共感できない』と思うんです。むしろ、その世界の経営者に必要なのは、“人とAIへの『共感力』”。AIが最適解だと提示したものに対して『自分の考えていることがまったく一緒だ』と一人称で判断できるかどうか」
共感できなければ、人は動かない。たとえ動いたとしても、スピードは期待できない。新しいテクノロジーが好きな高原も、AI経営に向ける視線は厳しい。
「もし、AIに一人称で共感できなければ、なぜその答えを出したのかを確認したい。でも、AIの判断基準はブラックボックスになっているでしょうから、そんなときの提案は無視します」
共振を仕掛けることも、「なぜ」に答えることもしないAIは、社員に耳を傾けないワンマン経営者そのものだ。それは確かに、高原とは相いれない。
たかはら・たかひさ◎1961年、愛媛県生まれ。86年成城大学経済学部卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)入行。91年ユニ・チャーム入社。95年取締役、97年常務取締役を経て、2001年より現職。日本経営協会会長、カルビー取締役、野村ホールディングス取締役。