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企業理念に気づかされた瞬間


共振の先にあるのが、「共感」だ。

「社長の私が言ったことに対して、社員が『よくわかりました』『刺さりました』という反応だと、本当の共感ではありません。共感とは一体化。理解して納得するプロセスは踏みますが、『自分も社長と同じ意見だな』と一人称で思えたら、それが共感です。ただ、それだけではダメ。その先の行動につなげてもらわないと、何も変わらないですから」

コロナ禍に発売されて話題となった新商品「顔がみえマスク」も、共振と共感の末に誕生した。

きっかけは、高原が社員に送り続けている誕生祝いメールだ。20年7月のある日、女性社員からの返信には写真が添えられていた。それは、自分の母親が手づくりしたという、従来品の中央部を切り抜いて透明フィルムを貼り付けたマスクだった。

顔見えマスクの写真
21年5月発売の「顔がみえマスク」。口もとから頬にかけての部分が透明フィルム製で、あごや鼻の周りは布でカバーされている。一人の社員からの声がきっかけとなって製品化の検討が始まり、共振と共感の末に誕生した。

「聴覚障害があるこの社員からの『口もとを相手に見せるマスク』というアイデアでした。マスクでの生活は、考えてみれば聴覚障害のある人や、医療や介護、教育現場でのコミュニケーションの妨げになると誰でも理解できます。でも、理解するだけで『共感』にまではいたっていなかった」

ちょうど中間決算の時期だった。マスクや除菌用ウェットティッシュの需要が拡大したため、ユニ・チャームは過去最高の営業利益を記録していた。そこであえて、需要がさほど大きくなさそうな新商品を開発する必要があるのか。

「冷静に考えれば、商品化しても赤字になる。透明フィルムを使うのは、不織布製品を開発するユニ・チャームのコアコンピタンスからも外れます。社内でこんな考えの人もいたと思いますが、それでも、私たちにはやらなきゃいけない理由がありました」

なぜならば、長く続くマスク生活の毎日に口もとの動きがハッキリ見える製品を提供することは、企業理念である「生活者の束縛からの解放、生活者の夢をより多く叶える」と一致するからだ。

「そのことに気づいて、社員が共感すると、徐々に『力』が集結していく。共感が起きないと自分たちの領分を守ろうとするし、『ほかの部門に負荷をかけたくないから』などと言い訳して逃げてしまう」

理想は「空気のようなリーダー」


共感は、待っているだけで生まれない。だから、必要な部門の間で「共振」が起きるよう、高原が積極的な働きかけもする。

「この『顔がみえマスク』も、開発部には『どうやってつくればいいだろう』、営業部には『どのように売ろうか』といった具合に、社長が根回ししました。営業への問いかけは、組織上はマーケティング部門の役割だけれど、マーケティング部門はほかにもやることがたくさんある。私がそんな具合に動くと、購買担当でもないのに心当たりがある縫製工場に打診する社員など出てきて、共感にたどり着きます」

文=片瀬京子 写真=ヤン・ブース 編集=神吉弘邦

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