しかし、彼女は大手の話を断って、TuneCoreの親会社であるBelieveが所有する独立レーベル、Pivtlと契約した。現在24歳のサンズは、Pivtlがアーティストに楽曲の権利の完全なコントロール権を与えている点が気に入ったと話す。「これは、大手のレーベルとの契約では得られない条件だ」と、彼女は述べている。
このような話は、Believeの52歳のCEOであるデニス・ラデガイリー(Denis Ladegaillerie)の耳にも届いている。彼は2005年にBelieveを共同創業したが、当時は音楽業界が死の淵に立たされた時代だった。彼は、2017年にはソニー・ミュージックからの4億4000万ドルでの買収提案を断って、インディペンデントな志を貫いている。
「あと10年も経てば、私たちはワーナー・ミュージックよりも大きな企業になるはずだ」とラデガイリーは語る。
ワーナーの2020年の売上高が45億ドルであるのに対し、パリに本拠を置くBelieveの同年の売上は5億2000万ドルと、夢の実現にはまだ時間がかかりそうだが、彼はその目標に近づいている。今年6月に上場を果たしたBelieveの時価総額はピーク時に20億ドル(約2230億円)近くに達し、ラデガイリーの持ち株の価値は2億5000万ドル相当とされた。
Believeの上場は、音楽界のもう一つのIPOと言えそうだ。昨年6月に株式を公開したワーナー・ミュージック・グループ(WMG)の時価総額は現在、約230億ドルで、世界最大の音楽会社であるユニバーサルミュージックグループ(UMG)の時価総額は約500億ドルだ。
これらの大手レーベルの業績は、2020年の世界の音楽売上高を220億ドル近くに引き上げたストリーミングに後押しされている。売上の大半は、大手レーベルと契約するスーパースターによるものだが、ここ最近はレーベルに頼らずに楽曲をリリースするアーティストが増えている。
チャンス・ザ・ラッパーは2016年、TuneCoreを使ってリリースしたアルバム「Coloring Book」でグラミー賞を受賞した。今年初めには、インディーラッパーのCupcakkeが、TuneCoreを使ってリリースして話題になったシングル「Deepthroat」でゴールドレコード認定を受けている。
TuneCore が今年上半期に支払ったロイヤリティの総額は1億5000万ドルに達していた。また、同社の親会社のBelieveは、2021年上半期に1億7500万ドルのロイヤリティとアドバンスを支払っていた。TuneCoreとBelieveの上半期のEBITDAマージンの平均は約14%で、ワーナーと同じレベルになっている。