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2021.10.09

倒産寸前の英国の雑誌社「フューチャー」を救った女性CEOの凄腕

stockfour / Shutterstock.com


出版社をデジタルメディア企業に転換


ビングソーンは元会計士で、経営危機に陥っていた英国の酒類販売企業「Threshers」と書籍販売企業「Waterstones」で経営幹部として事業の立て直しに務めた経歴を持つ。しかし、彼女がフューチャーのCEOに就任する前にメディアに登場したのは、車のクラシファイド広告を扱う雑誌「Auto Trader」の暫定CEO時代の1回だけだ。彼女は分厚い雑誌を廃刊にして従業員の削減を図り、前任者が進めたモバイルファースト戦略を加速させた。

「彼女は、出版社がデジタル化を進めるためのモデルを確立した」とFlashes & Flamesの創業者で、長年メディア業界で重役を務めるColin Morrisonは話す。

Auto Traderは2015年に株式を上場し、時価総額は35億ドルに達したが、ビングソーンは正式なCEOへの昇格を見送られたため、2013年に同社を去っていた。フューチャーのデジタル化に成功したビングソーンは、高い株価を活用し、2016年以来19.1億ドルを投じて21件のM&Aを実施した。

8月には、Dennis Publishingから「Kiplinger’s Personal Finance」、「The Week」などの10誌を4億1500万ドルで買収した。Dennis Publishingは、「Maxim」や「Stuff」などの男性誌を手掛ける大手出版社だ。紙媒体の買い手は少ないため、ビングソーンは強気に交渉を進め、買収価額を引き下げることに成功した。

買収を加速させるフューチャーに対し、ロンドン本拠のヘッジファンド「Shadowfall」が2020年に空売りを仕掛ける事態が発生した。Shadowfallは、フューチャーを「低品質で明らかに縮小している資産のコレクション」と評したが、結局このショート攻撃は失敗に終わった。

フューチャーが11月に車両保険比較サイト「GoCompare」を7億9500万ドルで買収すると発表した際は、投資家に動揺が走ったが、彼女は引き下がらなかった。

次の目標は米国の女性メディアの買収


「多くの人は、最も安い商品を探しているのではなく、自分に最適な商品を探しており、商品選びをサポートしてくれるサービスを求めているのだ」とビングソーンは話す。この買収は、彼女にとって過去最大の案件となった。

ビングソーンが次に目指すのは、米国の読者数とEコマース売上を増やすことだ。フューチャーは、スポーツや音楽、テクノロジーのジャンルで高収益ビジネスを確立することに成功し、女性のライフスタイルと室内装飾に関する雑誌の買収を検討している。実現すれば、米国の大手出版社であるハーストやメレディス、コンデナストに対し、彼らの本拠地で挑戦を挑むことになる。7年前であれば、非現実的であり、全くあり得ない戦略だった。

「帰宅途中に、従業員に給与を払えなくなったらどうしようと考えることがある。でも、その一方で、米国民の3人に1人にリーチするにはどうしたらいいのかと考えている」とビングソーンは語った。

編集=上田裕資

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