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2021.10.09

倒産寸前の英国の雑誌社「フューチャー」を救った女性CEOの凄腕

stockfour / Shutterstock.com

英国のメディア企業、フューチャー(Future Plc)の事務所は、お洒落とは程遠い西ロンドンの袋小路の奥にあり、両脇には安宿が立っている。低層の白いビルの中に入ると、パーティクルボードが付いた安物の机が何列も並んでいるが、そこで働く社員は1人もいない。

パンデミックが発生して18カ月が経つが、2500人の従業員の多くはまだ在宅勤務をしている。フューチャーは、「Guitar Player」や「PC Gamer」、「Radio World」、「Golf Monthly」などの趣味に関する雑誌を80誌出版している。CEOであるジラ・ビングソーン(Zillah Byng-Thorne)の役員室には、定価200ドルの派手なレザー製ゲーミングチェアが置かれている。「イベントで使った備品で、無料で手に入れた」とビングソーンは肩をすくめて言った。

ビングソーンは、節約術に長けている。現在46歳の彼女は、前CEOが投資家から解任されたことを受け、2014年3月にフューチャーのCEOに就任した。当時、同社は多額の赤字を抱え、売上高は1億300万ドル、時価総額は4000万ドルまで落ち込んでいた。「会社はつぶれる寸前だった。私は何が起きているか全く分かっておらず、投資家に立て直すまで1年の猶予を要求した」とビングソーンは話す。

彼女は、最初の6カ月間で全従業員の40%に相当する400人を削減し、コストの高い米国の拠点を閉鎖した。また、主要誌だった「Procycling」を含む17誌を3600万ドルで売却した。

ビングソーンは見事に事業を立て直し、フューチャーをデジタルコンテンツの大手に変貌させた。同社の昨年の売上高は4億5100万ドル(約500億円)、利益は9570万ドルだった。株価は、6年間で3821%上昇し、現在の時価総額は63億ドルに達している。ビングソーンは、雑誌の販売や広告への依存度を大幅に引き下げ、主要な収益源をイベントやデータ、Eコマースへと変換した。同社は、売上高の約25%をアフィリエイトマーケティングで稼いでいる。

例えば、読者がテック系メディアサイト「TechRadar」のレビュー記事内でアマゾンのリンクをクリックして商品を購入すると、フューチャーは最大8%の手数料を得ることができる。ニューヨーク・タイムズやフォーブスなどの主要メディアもアフィリエイトマーケティングを行っているが、ビングソーンは製品特化型メディアをいくつも手掛けることで、他社より多くの収益を上げることに成功した。
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編集=上田裕資

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