同社がIPOのために提出した証券登録届出書(フォームS-1)に目を向けると、建設業界を巡る興味深い事情が見えてくる。たとえば、マッキンゼーがデジタル化の進行度合いを業界別に調査した報告書によると、建設業界は概してテクノロジー投資が遅れている。建設業界のデジタル化は、農業・狩猟業界と比べてわずかに進んでいる程度だ。
オラクルの建設・エンジニアリング部門データサイエンス・分析担当グローバル副社長カルティク・ヴェンカタスブラマニアン(Karthik Venkatasubramanian)は、「建設業界は歴史的に見て、細分化されたプロジェクトチームから成り立っており、各チームは複雑に入り組んだ作業プロセスを、他チームと連携することなく進めている」と話す。「建設作業は基本的に現場主義であるため、建設プロジェクトは昔から、作業員の経験と専門知識を頼りに完遂されてきたし、テクノロジーの導入によって見込まれるメリットは重視されないことが多かった」
しかし、状況は変わりつつある。変化を引き起こした大きなきっかけのひとつが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによる影響だ。つまり、デジタルソリューションの導入が、以前にも増して急務となったのだ。
トムベスト・ベンチャーズ(Thomvest Ventures)のアソシエイト、ローレン・ウェストン(Lauren Weston)は、「建設業界には、ベンチャーキャピタルの資金がどんどん流れ込んでいる」と話す。
しかし、新型コロナウイルス感染症は変化が起きた要因のひとつにすぎない。他にも、政府によるインフラ投資の増加や、慢性的な人手不足、サステナブルなソリューションの必要性、サプライチェーンの混乱といった要因もある。
とはいえ、従来型のソフトウェアでは不十分のようだ。建設業界の変革においては、人工知能(AI)が決定的な役割を果たそうとしている。
ITコンサルタント企業キャップジェミニ・アメリカの製造・自動車・ライフサイエンス担当副社長でセールスリードのヴァンシ・ラチャコンダ(Vamshi Rachakonda)は、「AIがあれば、これまでのやり方では不可能だった膨大な量のデータ計算が可能になる」と語る。「画像や動画、テキストといった非構造化データを処理してマイニングを実施し、インサイトや情報へと変換する際には特にそうだ」
AIを導入すれば、より積極的なアプローチも可能になる。「現在の建設業界で使われているリポートやダッシュボードの大半は、プロジェクトの『完了した作業』や『進行中の作業』など、すでに終わったことを確認するために利用されていることが多い」とヴェンカタスブラマニアンは話す。
「しかしAIがあれば、『何が起こりうるのか』と問いかけることができる。適切に用いれば、すべてを一新させるゲームチェンジャーになるかもしれない。プロジェクトを早めに完了させたり、利幅を増やしたり、リスクを大幅に軽減させたりできる可能性があるからだ」