SPAC銘柄特有の「負の連鎖」
さらに、SPACの財務的な仕組みも、ヒッポにとって問題となった。SPACの株は、どの企業を買収するかを決める前に、通常1株10ドルで公開され、投資家は、買収対象が発表される前に株を購入できる。しかし、数カ月後の買収プロセス完了の数日前になって、投資家が株を売りたいと考えた場合、その株を「償還」して1株あたり10ドルの現金を取り戻すことができるのだ。
SPACの株は、市場の歪みを利用してノーリスクで利益を得るアービトラージ・トレーダーにとって格好の収益源となった。Accelerate Financial TechnologiesのCEOのJulian Klymochkoは、合併が完了する直前のSPACの株式が上場価格を下回る9.95ドルで取引されていれば、トレーダーはその株式を購入し、10ドルで株式を償還することで、リスクなしで1株あたり5セントを儲けられると指摘した。
ヒッポは、SPACを通じて投資家から2億3000万ドルを調達することを目指していたが、株主の84%が合併前に株式を償還したため、3700万ドルしか調達できなかった。つまり、投資家はヒッポに50億ドルの価値はないと判断し、株を手放したのだ。
現在のヒッポの時価総額は約25億ドルで、合併の際の評価額の半分に縮小した。
ヒッポのCFOのスチュワート・エリスは、償還は主に市場の力学によるものだと主張している。同社は、Ribbit CapitalやDragoneerなどの出資元から5億5000万ドルのPIPE方式の私募調達を実施し、バランスシート上には約9億ドルのキャッシュがあるという。
しかし、ヒッポは別の大きな問題にも直面しており、それが株価の低迷を招いている。同社が8月に発表した第2四半期の決算では、損害率(保険金の支払いと管理のためのコストを、顧客からの保険料収入で割ったもの)が161%とされていたが、損害率が100%を大きく下回らなければ、保険会社は儲けを出せない。8月中旬の決算発表から6週間の間に、ヒッポの株価は5.49ドルから3.99ドルに下落した。
エリスはそれでも「損害率を業界並みに抑える自信がある」と述べている。彼は、同社の顧客がテキサス州に集中していることが原因で、冬の嵐のウリなどの悪天候の影響を受けたと主張している。
ヒッポにとってもう一つの重要な問題は、事業が急速に成長して成熟していく中で、顧客獲得コストが上昇する懸念があることだ。先日の決算発表で、エリスはそれはまだ起きていないと述べたが、フィンテック関連に資金を注ぐ投資家は、この指標を注視していくことが賢明と言えそうだ。