その数カ月後、ヒッポの創業者でCEOのアサフ・ワンドは、SPAC(特別買収目的会社)との合併を通じた株式上場についてバラ色の未来を語っていた。SPACは、独自の事業を持たない空箱の企業(いわゆるペーパーカンパニー)で、上場時には事業の実体を持たず、将来的に有望な会社と合併や買収を行うことを目的に設立される。
しかし、8月4日に上場を果たした同社の株価は、上場初日につけた10ドルから50%以上も下落し、約4.5ドルとなっている。
最初の問題は、ヒッポのSPAC上場のタイミングだった。投資家で元VISA社長のハンス・モリスは、2020年10月のフォーブスの取材に「ユニコーンと呼ばれる企業はすべて、複数のSPACから買収の提案を受けている」と語り、その翌月には三井住友海上火災保険がヒッポと提携し、3億5000万ドル相当の新株予約権付社債を購入して出資していた。
SPACの調達額は、2019年に140億ドルだったが、昨年は830億ドルに上昇し、バブル状態にあった。
ヒッポは2021年3月4日にLinkedInの共同創業者のリード・ホフマンらが支援するSPACとの合併を通じた上場を発表したが、その際の評価額は前回の資金調達時の15億ドルの3倍以上の50億ドルだった。
資産運用会社のAccelerate Financial Technologiesによると、ヒッポが上場を発表したのはSPACブームが頂点に達した時期だったという。その後は当局の監視が強化され、ギャンブルサイトのDraftKingsやEV(電気自動車)メーカーのローズタウン・モーターズなどのSPACが支援する企業が法的な問題に直面し、市場は急速に冷え込んだ。
一方で、投資家はヒッポなどのインシュアテック(保険テクノロジー)関連の企業への投資を控えるようになった。米国では2月の冬の嵐「ウリ」の影響で保険会社が打撃を受け、レンタカー保険に強みを持つレモネードや、自動車保険のルートとメトロマイルの株価は、2月から7月下旬までに約50%下落した。