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2021.10.07

「プラスチックゴミから海を守れ」━━石油会社を飛び出した二人がたどり着いた「革新的な素材」とは

アイ-コンポロジー 取締役 小出 秀樹(左)と代表取締役 三宅 仁(右)

東京都が都内のものづくりベンチャーを支援する取り組み、「東京都ものづくりベンチャー育成事業(Tokyo Startup BEAM プロジェクト)」。このプロジェクトに採択された企業の想いを聞き、未来に与えるインパクトを予見する連載企画が「『ものづくりの街 TOKYO』始動」だ。

今回取材したのは、バイオマスプラスチックの研究開発を行うアイ-コンポロジー。

「毎年、800万tが海に流れ出ているプラスチックをどうにかしたい」「カーボンニュートラルの実現に貢献したい」という強い想いから石油会社を飛び出した二人が生み出した「海洋生分解プラスチック複合材」が地球環境を変えていくスタートドミノとなる。



「温室効果ガスを削減する取り組みが明確に盛り込まれた2015年のパリ協定は、世界中に大きなインパクトを与えましたが、カーボンニュートラルの観点からすれば、日本はヨーロッパなどの環境先進国から遅れをとっている状況でした。しかしここ数年、日本にも国と企業とが本腰を入れて環境問題を解決していく流れが遂に生まれてきました」

そう話すのはアイ-コンポロジーの代表であり、研究者でもある三宅 仁。同社はカーボンニュートラルへと向かう時代を見越し、いずれ世界で必要とされるであろうバイオマスプラスチックの研究開発を行ってきた。現在、社員は2名。副代表の小出秀樹も三宅と共に大手石油会社で石油由来プラスチックの新素材開発に取り組んでいた研究者だ。

この2名が研究開発するバイオマスプラスチックは、「2050年カーボンニュートラル」を達成するために欠かせないピースとなる可能性を秘めている。キーワードになるのは、「生分解性(※)」である。

※生分解とは、単にプラスチックがバラバラになることではなく、微生物の働きにより、分子レベルまで分解し、最終的には微生物が食べて二酸化炭素と水となって自然界へと循環していく性質である。

ウッドプラスチックを研究開発する意味とは


「私と三宅は、日本の石油化学が全盛期を迎えていた1980年代からプラスチック素材の重合(※)による新製品の研究開発に携わってきたのですが、2000年代に入ると地球温暖化を含めた環境問題がクローズアップされるようになりました。自然界で分解できないプラスチックに対して、ヨーロッパではバイオエコノミーの観点を取り入れたプラスチックの研究開発がすでに開始されていて、日本では数社が追従していました。そこで私たちが出会ったのが『ウッドプラスチック』になります」(小出)

※簡単な構造をもつ分子化合物が連続して結合し分子量の大きな別の化合物を生成する反応。

「ウッドプラスチックは、木質のバイオマスとプラスチックの複合材料です。天然素材を活用し強度もあるのでエコロジカルな方向に一歩進んだプラスチック素材なのですが、成形の自由度がないというのが定説でした」(三宅)

研究を重ねた三宅と小出は、その定説を覆す製造プロセスにたどり着いた。2008年のことだ。その技術は、環境先進国の欧州勢にも実現できていないものだった。

「当時のウッドプラスチックの押出成形は当時でも30年前の技術であり、ほとんど進化していませんでした。ヨーロッパでは製造機械を改良する研究が一般的でしたが、私たちは素材に着目しました。新しい添加剤や製造法で実験したところ、プラスチック成形で通常の工程とされる射出成形に成功し、成形の自由度を獲得したのです」(小出)

こうして光が見えた矢先であったのに、思いもよらない事態が二人を襲った。会社の方針で新素材の開発事業がストップしたのだ。

「当時、世界では考え方が変わってきていて、経営においても環境保全に対するプライオリティが高まっていましたが、まだ日本はそうではありませんでした。環境後進国に甘んじていることにさえ気づいていない時代、企業がそういった判断をすることもあり得ない話ではなかったのです」(三宅)

この素材は日本、ひいては世界に必要なもの。これまでの研究のすべてを無にするのは、もはや日本にとって大きな損失であると考えた二人は、起業の道を選択した。2016年、新たな旅が始まった。

マイクロプラスチックを出さないプラスチック


アイ-コンポロジーを創業した三宅と小出は、ボトル製造などを可能とするブロー成形、トレイ製造などを可能とする真空成形にも対応した次世代ウッドプラスチック「i-WPC」の製品化に成功した。次に取り組んだのは、「i-WPC」の特徴をもち、さらに自然界で100%の生分解を可能とするウッドプラスチックの研究開発だ。生分解にはいくつかのステージがあり、コンポスト(堆肥、生ゴミ)、土、淡水の順に分解が進みにくくなり、最も難しい環境のひとつが海水環境とされている。二人はその高みを目指した。そして2019年、海洋生分解性バイオマス複合プラスチック材料「Biofade(ビオフェイド)」の開発成功にたどり着いた。

今回、Tokyo Startup BEAM プロジェクトの採択により、アイ-コンポロジーは「Biofade」の海洋生分解性という最大の特徴を生かした漁具の開発に挑む。最大の目的は、近年注目されている海洋マイクロプラスチック問題へのリーチである。

「毎年、世界で800万tのプラスチックが海に流れ出ていると推測されています。陸では清掃により、ある程度は片付く可能性もあります。しかし、海洋に流出したゴミの回収となると簡単ではありません。世界の海洋ゴミの半分は、浮き玉、漁網などの漁業ゴミだといわれています。そもそも、石油由来のプラスチックは、自然界ではほとんど生分解しません。海中では500年も生分解しないとされています。熱分解や紫外線分解の可能性も考えられますが、それは単に分子が細かくなるだけ。私たちは『Biofade』を使った漁具の開発により、近年注目されている海洋マイクロプラスチック問題の根本にアプローチします」(三宅)

分子レベルに細分化しても生分解しないマイクロプラスチックは有害物質を集めて、海中で魚の体内に蓄積し、食物連鎖によって人間の体にも取り込まれる。こうした危険性のあるマイクロプラスチックがいま、世界の海で増え続けている。残念ながら、プラスチックを海にまったく流出させない世の中をつくるのは難しい。こうしたなかで、ソリューションのひとつになりうるのが「Biofade」なのだ。

さらに、「Biofade」にはマイクロプラスチックを出さないことに加え、もうひとつ大きな特徴がある。

「『Biofade』は『i-WPC』の合成技術を使い、海外で研究開発が進められている生分解性プラスチックとバイオマスを複合化させたものになります。生分解とは微生物が分解するという意味であり、最終的には二酸化炭素と水になるわけですから、当然『Biofade』の生分解過程でも二酸化炭素は排出します。しかし、その二酸化炭素は原料バイオマスが最初から光合成で内包していた二酸化炭素。つまり、大元の大気中の二酸化炭素が循環するだけで、『Biofade』からは新たな二酸化炭素は発生しません。これが典型的なカーボンニュートラルの仕組みです」(小出)

「2050年カーボンニュートラル」を宣言した国・地域は120を超えているが、環境先進国であっても、そこへと至る明確な方法を提示できていない。そうしたなか、長年、環境後進国とされた日本のものづくりの現場でカーボンニュートラルな素材が生まれ、2050年に向けた希望の光が灯されたのだ。


「Biofade」(写真右上)で生み出した浮き玉、ルアー、カキ養殖用パイプ

カーボンニュートラルは本当に可能か


「いまはまだ、少量しか『Biofade』をつくれていないので、当然ながら製造コストがかさんでいます。『Biofade』は通常のプラスチックに比べて原価が高いのですが、いまの日本の企業には環境に対するコストを許容する文化が生まれつつあります。首相のスピーチでも語られ、産業界が動き出したことで、日本は環境先進国としての歩みを始めました。これから需要が増大して製造量が増えれば、『Biofade』の製造コストは1/2から1/3になるという試算もあります」(小出)

二人には潮目が変わったという実感がある。現在、アイ-コンポロジーにはバイオマスの廃材を使ってほしいという食品飲料メーカーや文具メーカー、素材利用を検討する自動車メーカーなどからの相談が後を絶たないという。

「アイ-コンポロジーでは開発素材の提供に制限を設けていません。できるだけ単価を下げて普及につなげたいからです。『i-WPC』にしても『Biofade』にしても、開発段階から量産を見越して設計しているので、新たな工場や機械を必要としないのが利点といえます。既存のプラスチック工場の設備で製作することが可能です」(三宅)

時代は変わり、環境保全に対する企業のマインドも前進した。そして、「i-WPC」や「Biofade」は全国のどこでも製造が可能だ。状況は揃っている。「i-WPC」「Biofade」という新しいウッドプラスチックがファーストドミノとなり、日本の、そして世界のカーボンニュートラルは加速していくに違いない。

バイオマスプラスチックで可能となる未来


最後に三宅と小出に今後の展望を聞いた。

「ウッドプラスチックは、日本に適したマテリアルです。日本の国土の2/3は森林ですから。日本では採算が取れないとの理由で放置される間伐材が年間で800万tもあるといわれています。一方で、日本のプラスチックの需要は年間1,000万t。そのほとんどが、石油由来です。

現在、あらゆる分野で海外への依存度の高さが問題になっていますが、石油はその最たるもの。輸入に100%頼っていますからね。ウッドプラスチックが『2050年カーボンニュートラル』のマストピースになると私たちは信じていますが、提案していきたいのは地産地消による循環型製造プロセスの構築です。ウッドプラスチックの原料となる木は地方に行けば行くほど多いので、スキームさえ組めれば、地方創生の一助となる可能性は大いにあります。最終的には、石油エネルギーの代替となる小規模のバイオマス発電所を各地方につくり、エネルギーを含めた究極のバイオマス材料をつくりたいですね」(小出)

「ここ1、2年でレジ袋の有料化などもあって、プラスチックへの関心が一気に高まりました。プラスチックの研究開発を行ってきた者として、プラスチックが目の敵にされる風潮に寂しさを感じることもあります。ただ、後世に宿題を残したくはありません。ウッドプラスチックは、世界を変えるポテンシャルを秘めています。私たちも若くはないので、あとどれだけやれるかわかりませんが、せめて後世に害にならない状況を用意しなければいけないと思っています。そして、当社の製品が、次の世代が持続可能な未来をつくるきっかけのひとつとなってくれたら幸いです」(三宅)

人間の生活を支え続けてきたプラスチックは、現代において環境への負荷を高めた。しかし、「i-WPC」と「Biofade」の登場で、それもまた変わる。一度は時代に埋もれかけた日本の研究開発の成果が、いま持続可能な世界を実現するためのマストピースとなる。



三宅 仁(みやけ ひとし)
アイ-コンポロジー株式会社 代表取締役。広島大学大学院工学研究科 博士課程前期修了(工業化学専攻)、出光興産株式会社にて高分子の研究開発・新規事業開発に従事したのち2016年に創業し現職。専門分野は高分子複合材。

小出秀樹(こいで ひでき)
アイ-コンポロジー株式会社 取締役。愛媛大学大学院理学研究科 修士課程修了(有機化学専攻)。出光興産株式会社にて化学品の企画・開発・販売に従事したのち2017年より現職。


── Tokyo Startup BEAMプロジェクト ──
「BEAM」は、Build up、Ecosystem、Accelerator、Monozukuriの頭文字。
BEAMは、都内製造業事業者やベンチャーキャピタル、公的支援機関などが連携し、ものづくりベンチャーの成長を、技術・資金・経営の面で強力にサポートする。東京は、世界で最もハードウェア開発とその事業化に適した都市だ。この好条件を生かし、東京から世界的なものづくりベンチャーを育て、ものづくりの好循環を生み出すこと(エコシステムの構築)が、本事業の目的である。
本記事は、東京都の特設サイトからの転載である。

本事業に関する詳細は特設サイトから

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