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東京ディープチャイナ


起業当初の創業者エリックさんの言葉は次のようなものだ。

「いまの中国人留学生はフードデリバリーを頼んで自宅で食べるのが好きだ。イギリスにも『Deliveroo』や『Just Eat』のようなフードデリバリーはあるけれど、これらのサービスでカバーしている中華料理は、われわれ中国人の嗜好には合っていない。本当に食べたい本場の中華のメニューは少なかった。

そこに市場のニーズがあることは、私自身がいちばんよくわかっていた。私の専門はコンピュータ科学で、同じ専門を持つ留学生がまわりにいたので、中華専門のデリバリーサービスを実現するためのアプリ開発を始めた。こうしてロンドンにある中国系レストランと在住の中国人をつなぐプラットフォームを構築することができた」

彼の起業の弁のとおり、多くの中国の人たちは、日本に限らず、欧米など海外の国々で食べる食事はパンチがないと感じている。本場の中華を食べたいという強く潜在的なニーズがあったのである。

かつてまだ中国が豊かとは言えなかった時代の留学生たちは、そんな要望を口に出すことはありえなかった。だが、この20年間の中国人留学生の著しい増加とともに、海外で飲食店を経営する同胞の存在、そして国を越えて機能するフードデリバリーサービスのおかげで、彼らはどこにいても、本場の中華料理を享受することが可能になったのである。

こうした3つの条件が整ったこともあり、東京でハングリーパンダのようなサービスが開始されるのも必然のことだった。前述のマネージャーの巩さんが語る。

「ハングリーパンダの本部はロンドンにありますが、杭州に開発チームを置き、約500人規模のエンジニアとデザイナーを抱えており、アプリのUIはすべて中国で設計している。中国人が使い慣れたアプリをグローバルに共通化することで開発コストを下げ、各国ではそれぞれ状況に合わせた飲食店の加盟を進めるというやり方を採用している」

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ハングリーパンダ日本支社のマネージャーの巩学偉さんは上海同済大学卒で、日本語は自分で習得したという

興味深いのは、同社が決して中国国内でビジネス展開する考えはないことだ。巩さんによれば、「中国には美団のような大手があり、いまさら参入の余地はない。だから、ハングリーパンダは在外華人5000万人向けのサービスを目指す」というわけだ。

この十数年、中国企業は海外の企業を金にモノを言わせて次々と買収してきた経緯がある。それに比べ、巩さんたちの考え方は海外事情をよく理解した元留学生ならではのリアリティに根ざしているといえるかもしれない。市場規模をやみくもに拡大することだけに価値を置いていないのである。

文=中村正人 写真=東京ディープチャイナ研究会

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