ワクチンパスポート制度化への問題点
SDGsの基本理念を観光に置き換えていうならば、「誰一人取り残さない観光」となるだろう。しかし、コロナ禍以来日本で行われてきた、そして行われつつある観光施策は、果たしてこの「誰一人取り残さない観光」に本当に向かっているのだろうかと考えてしまう。
例を挙げると、まず、昨年来実施された一連の「Go To トラベル」の キャンペーン。これは、簡単に言うと大幅割引キャンペーンだ。これによって停滞した経済を動かそうという狙いはわかる。しかし私は、以前から観光や旅行商品、宿泊プランなどの割引キャンペーンについては懐疑的だ。
確かに観光客にとっては安いほうが嬉しいのは当たり前だし、それで観光客が増えれば事業者にとっても有り難いことだろう。しかしこういった対処療法的な手法は、その時は良くても、将来の観光価値を下げるケースも多々あり、とても危険なことだと思っている。何年もかけて積み上げて来たブランディングがそこで崩れてしまう危険性もあるからだ。
また、そのGo To トラベルのクーポンなどの獲得が、PCやスマホが苦手な人にはアクセスが容易ではないという不平等性が課題になっていたのも記憶に新しい。こういった取り残された人が多く出てしまう施策は、そもそもSDGs的ではないだろう。
そして昨今、もっとも問題だと感じているのが、いわゆる「ワクチンパスポート」だ。これは、本来、海外渡航のためにワクチンが接種済みであることを示す公的な証明が必要な人に、予防接種法施行規則に基づいた接種証明書を発行するというものだ。
当然、厚労省のHPなどでも「ワクチンを接種するかしないかは個人の判断であり、接種証明書の発行により、新型コロナワクチン接種を強制するものではありません」と記されてはいる。しかし、さる9月9日、総理大臣がワクチンパスポート及び検査の陰性証明書を飲食やイベント、旅行などの社会経済活動を正常化する道筋をつけるために活用することも考えていると堂々と発言した。
さらに、新型コロナウイルス感染症対策本部が策定した「新型コロナワクチン接種証明の利用に関する基本的考え方について」の文書には、ワクチンパスポート提示者への「商品の割引やおまけの提供」など、一定のメリットを与える旨はすでに書かれてあり、接種証明の活用が幅広く認められるともある。
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問題だと思っているのは、ワクチンパスポートそのものではなく、それを、今後の経済活性化のためにより広い用途に使えるようにしようという考え方だ。一部の航空会社の中には、国際線と同様、国内線でもワクチンパスポートや陰性証明書の導入をするのが望ましいとの意見もあるようだ。