ワクチンパスポートの活用は、コロナ禍の「観光」に何をもたらすのか

Plume Creative(Getty Images)


日本では現在、もし海外渡航のために、未接種者がワクチンパスポートの代わりの陰性証明書を得るとしたら、事前に指定の医療機関で検査をして(ほぼ予約が必要)、各国で通用する正式の証明書を得る必要がある。英語圏に行くなら英語の証明書が必要だし、中国語圏ならは中国語の証明書という具合にだ。

そして、その費用は、医療機関によって差があるが、だいたい1万5000円から高いと6万円まで。平均的には2万円から3万円はかかるといったところだ。ワクチンパスポートは自治体が無料で発行するのに比べてなんと差があることか。ワクチンを打つことのリスクを鑑みて打たない人もいるが、私が気になっているのは、ワクチンを打ちたくても打てない人もいるということで、それへの配慮があるのかという問題なのだ。

もちろん、海外渡航用ではない簡易のPCR検査なら、現在数千円で可能なものもあるので、今後、国内旅行や国内移動などに義務づけられた時には、もっと安価な陰性証明書が発行されるようになるのかもしれない。

とはいうものの、将来ワクチンパスポートが、飲食やイベントや旅行などの社会経済活動などにどんどん活用され、所持している人だけがさまざまなメリットが得られるようになっていったら、「陰性証明書」でしか対応できない人々は、どんどん取り残されていくのではないだろうか。

そして、それは果たして、誰一人取り残さない観光(=持続可能な観光)の姿だと言えるのだろうか?

楽しいはずの旅行や観光も、その前提で、特定の人々にのみメリットがあるような状況では、やはりサステナブルとは言いがたいものになってしまうのではないだろうか。

そしてそれは、ノーマリゼーションにも反するのではないかと思っている。障がいのある人なども、ともに快適に旅ができるユニバーサルツーリズムへの不寛容にもつながってしまわないかという危惧も抱いている。

SDGsの基本理念にも通じる「誰一人取り残さない観光」をめざすという取り組みは、旅をする人も迎える人も、互いの違いや状況を尊重し合える寛容の精神を育み、慈しむことに繋がると思う。そんなサステナブルな旅行や観光を、私はぜひ日本から発信してほしいと願っている。

連載:サステナブルツーリズムへの歩み 〜岐阜から発信する未来の観光
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文=古田菜穂子

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