ワクチンパスポートの活用は、コロナ禍の「観光」に何をもたらすのか

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持続可能な観光(サステナブルツーリズム)とは、「地域の自然環境や文化、伝統などを守りながら、観光業を活性化させるなかで住民の暮らしを豊かにし、人々がそこで何世代も幸せに暮らし続けるための地域振興や新産業化」だと、前回のコラムでお伝えした。

そのために私は、10年以上前から持続可能な観光地づくりを行ってきたが、昨年来のコロナ禍で、新たな課題となってきたのが「この状況下でサステナブルツーリズムの未来をどうつくるか」だった。

コロナ禍では、観光の在り方が、それまでの団体旅行型の観光から大きく変わった。いや、変わらざるを得なかった。

安心安全が担保された個人消費型の「量より質」の観光、また都市型観光から地域の魅力を大切にする観光の実現へと、まさにSDGs(持続可能な開発目標)の実践そのものに貢献、直結するものとなっていったのだ。

SDGsの基本理念は「誰一人取り残さない(No one will be left behind)」ことであり、それらの実現のために、17の開発目標と169のターゲット、232の指標が立てられている。

観光分野としては、1.包括的・持続的な経済発展、2.社会的な関わり、雇用拡大や貧困の撲滅、3.資源の有効活用、環境保護や気候変動、4.文化的価値、多様性、遺産、5.相互理解、平和、安全といった5領域と17のゴールが設定されている。

これらが設定されたのは2017年、当然まだコロナ禍は起こっていなかった。しかしすでに、気候変動や安全性への取組指針としては、近い未来に起こる可能性のあるパンデミックが予測されていた。観光がこれからの未来に向けて取るべき改善策へとして、宿、移動、食、雇用、地域、そして環境や気候変動に配慮した資源保全や保護などの観点について、どのように責任ある旅行サービスを推進していくべきかがすでに示されていたのだ。

だからこそ私は、コロナ禍でのサステナブルツーリズムについて考えるとき、SDGsの理念に、都度、立ち戻るように心がけている。

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そこで、いま私が気になっているのは、日本の観光がコロナ禍をきっかけに、SDGsの実践に基づいたパラダイムシフトに向かうのではなく、もしかしたらその真逆に向かっていくのではないかという危機感だ。
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文=古田菜穂子

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