失敗とは「成功へのシミュレーション」。環境づくりのコツ

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とはいえ、この子どもの頃の原体験により、「繰り返し失敗することでいずれ成功に到達する」というイメージが、人間には知らず知らずのうちに基礎として根付くのかもしれません。

新しい事業やプロダクトを生み出すときに、1度や2度失敗したくらいであきらめていては、いつまで経っても成功しないのではないでしょうか。

もちろん、事業立ち上げには費用もかかるので、無限には失敗を繰り返せないのが現実ですが、そこは机上の仮想シミュレーションなどをうまく使うことで、何度も試してみると良いのではないでしょうか。

エジソンの言うように、失敗は「そのアプローチではうまくいかない」というケースを潰していくことに他なりません。失敗を観察することで共通点を見つけ、そこからこれまでにないパターンを導き出し、それを試すことが成功率をあげることに繋がるのです。

デジタルは失敗をたくさんできる環境


風に流れる雲が自分の気に入る形になるまで、撮影を開始しなかったと言われていた映画界の世界的巨匠、黒沢明監督。そのこだわりが、撮影後何十年経っても彼の作品が色褪せず、多くの映画人に強い影響を与えたと言われる所以でしょう。普通の人にはちょっと真似のできない素晴らしい「努力」だったと思います。

かつての映画製作では、劇中に登場する建築物を実際に建てたり、背景も立て看板に絵を描いたりと、実物に見せかけたセットをつくっていました。撮影終了後にはそういった製作物が保存されることは少なく、通常は廃棄していました。

昨今、映画などのコンテンツ制作においてはデジタル技術が多用されており、そうした建築物や背景などは、当然コンピューターグラフィックスにより自由自在につくり上げることが可能です。

また、デジタル技術にロボティックスを加えることで、危険なスタント撮影をロボットが代替するということもできるようになってきています。これにより、実写の動きに近いスタント映像で、かつ実際に人間が演じるよりも理想的な動きをつくり出すことができるようになりました。

このように、デジタル環境であれば、製作物を格段に減らすことができたり、生身の人間が演じるよりも、思い描いた理想の動きをつくり出すことが可能になるのです。

また一発勝負でなく、ライティングなどの条件を何度も変えたり、背景の雰囲気を自在に調整してみたり、製作上の自由度がとても大きくなります。俳優の拘束時間も短くなるので、製作費をよりコンテンツのクオリティ向上のために使えるというメリットもありそうです。

つまり、デジタル環境は失敗をたくさんできる環境と言ってもよく、これをビジネスに取り入れないという理由はありません。

日本では甚大な自然災害は少なくなく、災害対策に関わるシミュレーション技術や可視化技術も日々進歩しています。津波の高さなどメートルで教えられても感覚的につかみにくいものが、実際の水位を映像にしたもので見せられると、その深刻さや避難誘導の重要度を正しく理解できます。

こうしたシミュレーションは、ビジネスの場合にも大いに役立つと考えられます。特に多くの日本の企業の経営判断は、まだまだ経験や勘、時には度胸など人の感覚に頼る傾向が残っています。

しかし、自社の事業環境をデジタル空間に置き、新しい技術を活用することで、さまざまな予測やシミュレーションが可能になります。最終的な経営判断の前に、あらゆる可能性を可視化することで、より多角的に物事を検討することができ、より早く正解にたどり着くことができるようになると考えられます。

実際に失敗を繰り返すことなく、答えにたどり着けるのであれば、それらの技術開発が今後のビジネス環境を大きく変えていくことになるのは間違いありません。

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文=茶谷公之

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