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2021.10.21

「ダイバーシティ」と「社会貢献」が鍵──MPower Partners キャシー松井氏とJICA北岡理事長が描く国と組織の成長戦略

JICA北岡理事長(左)とMPower Partners キャシー松井氏(右)

ダイバーシティや社会貢献。こういった課題に真剣に取り組まなければ、組織は生き残れない。

JICA北岡理事長とウーマノミクスの提唱者であるMPower Partners キャシー松井氏が対話の中で見出した真の課題と光明とは?



──人への投資という観点から、教育、とくに女性に向けての教育についてのお考えを聞かせてください。

キャシー松井(以下 松井):世界には貧困や飢餓、戦争、テロリズムなどのさまざまな問題が存在します。それらの問題一つひとつに対して解決に向けてアプローチすることも大切ですが、すべての問題を解決できる特効薬が一つあるとしたら、それは女性教育だと考えています。

男女ともに教育機会は重要ですが、特に女性に教育機会を提供すると、女性本人が恩恵を受けるだけでなく、家族や子どもたちにも教育の再投資を行う傾向があります。もちろん男性への投資も大切ですが、開発途上国の場合、同じ100ドルを投資するなら、男性に投資するより女性に投資したほうがコミュニティへのリターンが大きいことがさまざまな論文で示されています。

いまから12年前、アジア女子大学がバングラデシュに設立されました。私が開校前からこの教育機関に関わっているのも、女性教育が万能薬だと強く信じているからです。アジア女子大学は、アジアの中で、ポテンシャルがあるのに高等教育の機会に恵まれていない女性たちに機会を提供しています。彼女たちの多くは卒業後、自分の国に戻ってコミュニティに貢献しており、好循環が回り始めています。

北岡伸一(以下 北岡):私は二つの観点からジェンダーの問題に真剣に取り組んでいます。一つは、女性が教育を受ける権利が不当に制限されているというフェアネスの観点。もう一つは、世界の人口の半分を占める女性の能力が発揮されないのは社会にとって大きな損失になるという観点です。キャシーさんが女子大学をつくられたことは、この二つの観点から見ても素晴らしいアイデアだと思います。

しかも、アジアという着眼が素晴らしいですね。アジアにはさまざまな問題と可能性が混在しています。たとえばアフガニスタンでは女性教育が進んでいません。国際協力機構(JICA)はアフガニスタンに対して多様な協力を展開してきましたが、女性の教育機会を広げることも重要視してきました。女性でなければ扱いづらい犯罪や事件があるので、女性警官の育成を行ってきたのもその一つです。

また、パキスタンでは、女性は男性の同行なく遠くに行ってはいけないという慣習があります。そこで遠くの学校に通えない女子を主な対象に、公的な学校に準じる教育機関を家の近くにつくる活動も支援しています。こうした状況を鑑みるに、主にアジアの女性を対象にした大学を設立されたことは素晴らしいと思います。

松井:アジア女子大学では現在19カ国の学生が学んでいます。ほとんどが都会ではなく地方の村の出身者です。たとえばロヒンギャの難民の学生もいます。教育はすべて英語ですが、彼女たちはアンビシャスで、成績もいい。悪循環にはまっていた女性たちが、自分で将来の絵を描けるようになっていく様子を見て、教育の力を肌で感じています。

北岡:JICAもさまざまな留学生事業をやっています。とくに力を入れているのが、日本の近代化の経験を学んでもらうプログラム(JICA開発大学院連携事業)です。日本は19世紀に開国して、言語や宗教といった伝統やアイデンティティを失うことなく近代化した非常に珍しい例です。当然、成功もあれば失敗もありますが、そうした日本の経験を留学生に学んでもらうプログラムです。日本に来た留学生には、帰国後はその国の発展に貢献することを期待しています。


オンラインで対談を行うJICA北岡理事長(左)とMPower Partners キャシー松井氏(右)

「ダイバーシティ」が組織を強くする


──日本の組織における女性の活躍については、どこに課題があるとお考えですか。

松井:私はバブル崩壊後の30年間、民間で日本の大企業の分析をずっとやってきました。 国の成長ドライバーは、3つしかありません。「人材」「資本」「生産性」です。このうち人材については、2055年までに労働人口が4割減ることがわかっています。そこで私は人材にフォーカスをして、1999年、“ウーマノミクス”のレポートを発表して、女性の活躍が経済の活性化につながることを説きました。

最初は「人口動態(労働力減少)は将来の問題だ」という反応で危機感が薄く、反応がなかったですね。また、「女性の社会進出」というと、人権問題、男女平等の問題ととらえられました。しかし、多様性のある組織はROEが高い、株価のパフォーマンスがいいといったエビデンスを示したことで、少しずつ企業や投資家の意識が変わっていきました。理解され始めたのは、2013~14年の第二次安倍政権が「成長戦略には多様な社会が不可欠」と言ってから。現在は、進んでいる組織もあれば、そうでもないところもあるという状況でしょうか。企業トップが組織全体を巻き込む力が重要です。

北岡:JICAも変わってきています。今年の管理職登用者のうち46%が女性でした。また、新規入構者の男女比率はほぼフィフティフィフティです。つまりJICAに入ってから20年間はほぼ互角という将来が見えてきています。

ただ、役員レベルまでいくと女性比率は1割程度です。最初は数値目標を決めればいいと考えていましたが、やはりそれだけでは難しい。大切なのは、まずロールモデルです。JICAの女性の役員には育児と仕事を両立し、さらに博士号を持っている方もいます。同じような立場の女性から見ると励みになるはずで、いろいろなロールモデルを増やしていかなければいけないと考えています。もう一つ、組織の中枢的な部門の課長職を経験する女性職員を増やし、部長や海外・国内拠点の所長にそのような経験を積んだ職員を抜擢して、トップの予備軍をつくっていこうと思っています。

ESGを考えない組織はサバイブできない


──キャシーさんはESG重視型グローバルVCファンド「MPower Partners」を設立されました。

松井:背景には、日本には才能のある人材や資本、技術が豊富にあるのに、ベンチャーマーケットの規模はアメリカの1/50に過ぎないという危機感があります。日本には成長性が高くて将来期待できる企業の種がもっとあるはずです。その種に素晴らしい花を咲かせるためのサポートとして、ファンドを立ち上げました。

特徴はESG重視であることです。いまの時代、ESGを考えない企業はもうサバイブできません。なぜかというと、誰か一部の信念や情熱で進んでいる話ではなく、経済合理性に基づいた議論だからです。現在、世界のESG関連資産は35兆ドルです。そのうち日本は約3兆ドルで、世界でもっとも伸びています。この流れは止まらないし、注目はさらに高まると考えています。

北岡:JICAは今年9月、ジェンダーボンド(社会貢献債の一種。ジェンダー平等・女性の活躍推進に関わる課題の解決に資するプロジェクトの資金調達のために発行される債券)を発行しました。これがいまのところ非常に反応がいい。日本の地方自治体で1億円分を購入して下さったところもあると聞いています。日本はいま低金利で、銀行にお金を預けてもほとんど利息がありません。それなら良い目的のためにお金を預けておこうと考える人が増えているのでしょう。

この傾向は、意外なことではありません。実はJICAは就職先として人気が高く、優秀な人が大勢応募してくれます。JICAに来てもお金儲けはできないし、権力だって握れません。それでも、途上国の発展に貢献したい、日本をもっと世界から尊敬される国にしたいという良い目的のために来てくれるのです。そういう意味で、良い目的に投資をしたいと考えるのも納得です。

松井:私は24歳と21歳の子どもがいます。彼、彼女らは投資の知識がないのですが、「あの会社の社長が差別的な発言をしたから、その会社の製品は買わない」「投資を始めたいんだけど、ママ、サステナブルETFはない?」と話していて、すでにESGの価値観が頭の中に入りこんでいます。若い世代の人に選択してもらいたければ、組織のパーパスや文化、倫理は大切です。ジェンダーボンドを発行することで、JICAはさらに人気の高い組織になるでしょうね。

インパクトフルな社会貢献に必要なもの


──最後にJICAに期待することを教えてください。

松井:JICAは日本の強力なソフトパワーの一つです。途上国のためにさまざまな活動を長く続けていらっしゃって、国際的にも評判がいい。ぜひそれを今後も継続していただきたいですね。

もう一つ、壁を壊す役割も期待しています。アメリカ人から見ると、日本の組織は縦社会的な構造が強いように感じます。アジア女子大学をやっていると、熱意を持ったNGOのリーダーや、非営利活動をやりたいという若いビジネスパーソンと大勢出会います。JICAは国際貢献の分野で素晴らしい活動をされていますから、ぜひさまざまな組織を巻き込んでいただければ、さらにインパクトフルな貢献ができるのではないでしょうか。

北岡:壁を越えることは大切ですね。昔は、「人間の履歴書は、大学卒業、就職、退職の3行でいい」と言われました。しかし、いまはそんな時代ではなく、転職がごく普通になりました。時間軸だけの話ではありません。一つのことだけやるより、並行して他のこともやったほうが、人としてパワーアップできるはずです。私自身、もともと学者ですが、国連大使を務め、いまはJICAの理事長を経験して、多くのことを学んでいます。そうした実感から、いまJICAの職員には「勤務時間の1割は自分の担当業務以外のことをやっていい」、管理職には「1~2割は既存案件ではない新しいことに取り組む姿勢を持ってほしい」とお願いしています。

対外的にも、従来の壁を乗り越える活動を新しく始めています。いま力を入れているのは、外国人労働者の受入支援です。日本は外国人労働者の受け入れが必ずしも円滑、親切ではなく、取り組みが不十分です。違った言語、違った文化を持った外国人の方が困っているときに、すぐに協力できる人材やネットワークを一番抱えているのはJICAでしょう。私たちは海外に行って仕事をするだけでなく、国内でも海外の方とお付き合いして協力をしていく。そういった活動も含めて、キャシーさんが指摘されたような期待に少しでも応えていきたいですね。


従来の壁を乗り越える大切さを語るJICA北岡理事長


独立行政法人国際協力機構(JICA)
https://www.jica.go.jp/



キャシー松井(きゃしー・まつい)◎MPower Partners Fund L.P. ゼネラル・パートナー。ハーバード大学、ジョンズホプキンズ大学院卒。ゴールドマン・サックス証券会社元日本副会長および、日本株ストラテジスト。ウーマノミクスの提唱者として知られ、2007年には、ウォールストリートジャーナルで「10 Women to Watch in Asia」に選ばれた。

北岡伸一(きたおか・しんいち)◎国際協力機構(JICA)理事長。1948年、奈良県生まれ。東京大学名誉教授。2015年より国際協力機構(JICA)理事長。東京大学法学部卒業、同大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)。立教大学教授、東京大学教授、在ニューヨーク国連代表部大使、国際大学学長などを歴任。2011年、紫綬褒章受章。著書に『日米関係のリアリズム』(読売論壇賞受賞)、『自民党 政権党の38年』(吉野作造賞受賞)、『国連の政治力学:日本はどこにいるのか』、『世界地図を読み直す:協力と均衡の地政学』、『明治維新の意味』など。

Promoted by JICA / text by 村上 敬 /photographs by 吉澤健太 / edit by 松浦朋希

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