車椅子で乗れる大型水害救助艇を開発、「瞬足」のアキレスが防災事業に取り組むわけ

大型水害救助艇 LCT-670


アキレスのエアーテントはこれまで、病院や救護の現場、除染用、自衛隊の野営などで用いられてきた。しかし今後はそうした特殊な現場や、有事以外のシチュエーションでの応用活用も考えていきたいという。前出の森が次のように語る。

「例えばコロナ禍での災害避難所では、1〜2メートル以上、人と人との距離をとらないといけないため、これまでより避難所に入れない人が多く出てしまう可能性がある。そうした時に、屋外にテントを設置して避難所として使うことなども、今後は提案していけるのではと考えています。また平時でも、例えば夏祭りなどの人が多く集まる場などで使っていただけるかもしれません」

天幕の色を変えて日常使いできるようにしたり、リサイクル可能な天幕の開発を行うことも検討しているという。

PCRテント
ブロアーで空気を送り込むことで15分程で組み立てが可能

「社長の伊藤は実家が水害で被災したことがあり、その経験から、アキレスの技術で被災者や救助者の力になる防災製品の開発ができないかを常に考えています。また、被災現場を訪問し、本当に必要とされているものは何なのか、自分たちの目で見て確認し、現場の声を反映した製品開発を行うことに重きを置いています。防災関連事業には、社長の強い思いがあります」と森と小泉は声を揃える。

では、アキレスはなぜいま防災に取り組むのだろうか。小泉が語る。

「台風をはじめとした風水害は、数年前までは、今年はこの地域に直撃したというくらいだったのが、いまでは全国各地で毎年のように発生しています。ここまで災害が深刻化しているなかで、アキレスの素材やいままで培った技術で貢献できることがあるのではないかと思っています。

これだけ頻繁に災害が発生していて、防災の大切さをわかっていても、ほとんどの人は十分な準備をしていません。実際に災害が発生し被災してからでないと、なかなか自分ごとにならないのが実態です。そうしたことも考慮し、緊急時に必要な防災物資を供給できる体制を構築しておくことは、メーカーとしての重要な役割であると考えます。

今後は、災害の予防から復興、救助される人だけでなく、救助する人も使用しやすい製品の開発と、防災製品のリースやレンタルなども開始する予定です。他にも、民間企業のBCP対策から、一般消費者の方にも手が届きやすい製品とサービスを提供していきたいと考えています」

筆者が実際にアキレスの防災製品展示会に足を運んでみると、地元消防団の人が来場していた。「このテントは簡単に折り畳むことができても、持ち運べる重さなのか」「土砂災害は消防も弱い分野なのだ」など、実際に現場で活動する人たちの意見を聞き、製品開発に生かすことができるのだという。

そうした声を聞き迅速に改良を加えられるのは、素材の開発から製品まで、一貫して行うことのできるアキレスならではの強みだという。今後も素材の会社だからこそのノウハウが生きた、新たな防災製品が生まれていくにちがいない。

文=河村優

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