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2021.11.08 10:00

コロナ禍でも学びを止めない。公文式教育が未来のグローバルリーダーを育む理由とは

経済産業省による「未来の教室」構想の柱のひとつ「学びの個別最適化」を、60年以上前に実現していた「公文式教育」。いまではその画期的教育方法は、50を超える国と地域へと浸透している。パンデミックに端を発したオンライン化により、さらに大きな飛躍のときを迎えようとしている公文式は、教育の未来をどのように書き換え、未来を担うグローバルリーダーを育てるのか。公文教育研究会 代表取締役社長の池上秀徳に話を聞いた。



高校教師だった故・公文 公(くもん・とおる)が、小学2年生の“わが子のために”つくった自学自習教材が口コミを呼び、1955年に学習塾として誕生したのが「公文式教室」である。黒板の前に教師が立って行う均一の教育ではなく、各生徒のレベルに合わせた教材で自学自習を行い、必要に応じて指導者にアドバイスをもらい学習を進めていくスタイルだ。

当時から革新的だったこの学習スタイル、実は経済産業省が2018年より実証実験を進めている「未来の教室」構想「学びの個別最適化」と見事なまでに符合する。

ではなぜ、創設者・公文 公は、66年前の時点ですでに「学びの個別最適化」の境地に到達していたのだろうか。その理由を、公文教育研究会 代表取締役社長の池上秀徳が、誕生の経緯から語ってくれた。


池上秀徳 公文教育研究会 代表取締役社長

「小学生時代に自学自習の機会があり、成績が伸びたうえに非常に楽しかったという自身の原体験をもとに、当時小学校2年生だったわが子に対して、学年縛りを行わず、どこまで知識・計算力が伸びるかを試みたのがきっかけだったと言います。

教材をわが子の理解レベルに合わせて徹底的に調整することで、小学校6年生時点で、高校生で学ぶ微積分までマスターできたというから驚きです」

自作の教材に確たる自信をもった公文は、1959年に自身が担任を務めるクラスで、自学自習を行い、自分は教室の奥に待機し、質問時にのみ各生徒にヒントを与えるという公文式教室の原型となる授業を実践していたという。彼のクラスは数学において学年トップの成績を収め続けたというから、実験は大成功だったと言えるだろう。

「各生徒の学力レベルに合わせた教材での自学自習は、黒板を前にして全員に均一に教える授業の対岸にあります。先に進める能力をもつ者は先へと進み、遅れている生徒は理解できるレベルにまで戻り、学習を進めるのです。

生徒に適した適切な難度は、自ら学ぶ力を生み、自己肯定感を高めます。学校とは違い、学習指導要綱の縛りがない分、学年を越えた知識まで習得することもできます」

「未来の教室」が掲げる「学びの個別最適化」では、タブレットなどのICTツールを使用して個人レベルに合わせた教材で自学自習することになる。教師は一斉講義を行わず、教室の隅で質問を待つという点まで、公文が行っていた授業と同じである。つまりテクノロジーの力を得て、教育現場が公文式教育に追いついたと言ってもよいだろう。

そしていま、KUMONもまたオンライン導入を実現することで、大きな進化を遂げようとしている。

公文式教育がオンライン導入により実現する家庭教育の充実


創業当時から変わらない公文式教育の基本は、教室に週2度通い、あとは家庭で教材を自習するというスタイルである。しかし世界的なパンデミックの影響で、通室が難しくなり、この仕組みが一時機能不全に陥ったという。

「世界中の子どもたちへの教育がストップする。そんな事態に直面するとは夢にも思いませんでした。そうしたなかでも、各国の公文式の指導者があきらめなかったことから、オンライン化の有効性に気づいたのです」

発端は、大規模ロックダウンとなったイギリスのKUMONの指導者たちが教室に通えなくなった生徒たちに、自主的にSNSやチャットツール、Zoomを用いて生徒への対応を開始したことだった。そのアイデアはすかさずKUMON本体に伝わり、その有効性を感じた同社は、わずか2カ月でオンライン対応を開始したという。

「始まりは確かに緊急避難的に始まったものでした。しかし奇しくもこの対応は、公文式教育を新たな地平に押し上げるきっかけとなったのです」

公文式教育は自学自習を基本とする。教室内は指導者たちがコントロールできるが、家庭学習ではそうはいかない。子どもたちがいかに家庭でも集中できるかについては、課題があった。

「公文式教育は家庭学習から誕生しました。しかし教室というかたちに進化すると、今度は家庭にアプローチすることが難しくなってしまっていたのです。どうしたら“家庭もKUMONの教室にできるのだろうか”、長年のジレンマを解決してくれたのが、オンラインでした」

池上曰く、教室のみだった以前の状態は、指導者にとって家庭はブラックボックスであり、親にとっては教室がブラックボックスだった。それが新たに実施した「オンライン&教室学習」では、Zoomなどのオンラインツールで家庭と指導者がつながることができるようになったのだ。

「KUMONが21年度から新たに提供を始めた“オンライン&教室学習”は、週に1回、または2週に1回教室に通室し、残りの学習日は教室に通わず自宅でZoom等のツールを使って学習し、指導者からオンラインでサポートを受けられるサービスです」

つまり、オンライン学習と教室学習の良い部分を組み合わせることで、さらに公文式学習を現代にアップデートする試みなのだ。

「これにより指導者は生徒の家庭学習にアプローチすることができ、適宜デバイスを通して適切な声がけや目標設定を行い、家庭学習での生徒のモチベーションを失わないようにすることができます。

いっぽう親にとっては、実際の公文式教育がどのように行われているのかが“見える化”され、安心感につながります。親としても、子どもたちにやる気を出させるための声がけのコツなどが参考になると評判です」



公文式教育が生み出す次世代グローバルリーダー


公文式教育はその理念に「健全にして有能な人材の育成」を謳っている。VUCAの時代のなかで、将来的に公文式教育はどのような人材を生み出すことができるのだろうか。

「“有能”はできないことができるようになり、いつの間にか高みにいる人物を表します。これは公文式教育そのものです。公文式学習は、算数・数学、英語・国語の学習を通して、有能な人材を育てます。“健全”については、創業者の公文は“読書”が大事だと表現しています。その意味は、多様な見方、意見を聞くことのできる人間であれということです」

これもまた「未来の教室」構想で掲げられている「学びのSTEAM(Science/科学、Technology/技術、Engineering/工学、Art/リベラルアーツ、Mathematics/数学)化」に通じるものだ。

「とはいえ“健全”に取り組むのは、KUMON一社でできることではありません。社会課題を発見するグループ授業などは、学校教育でなくてはできませんし、地域や家庭もまた重要な役割を果たすからです」

「公文式は、魚を与えるのではなくて、魚を釣る方法を学ばせる教育法」と表現したのは、“わが子”として史上初の公文式教育を受けた公文 毅だ。そこで身につけた「自習する態度と方法」は、そのまま課題を見つけ、環境、手段、コストを取捨選択し、方法を立案できるリーダーとしての基礎条件となるという。

「そのうえで学校教育で実際の人間関係とともに、人をまとめるリーダーシップを得ることができれば、次世代グローバルリーダーが誕生するのではないでしょうか」

KUMONがつくり出す未来とは


KUMONグループでは「イノベーション2025」と題した「2019-2025中期経営方針」がすでにスタートしている。そのなかには国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)で掲げられている17の目標の4「質の高い教育をみんなに」の実践も盛り込まれている。

児童養護施設や放課後デイサービス、障害者施設などへの公文式教育の導入もその一環だ。

さらに法務省が行う、少年院出院者への再犯・再非行の防止の実現を目指した学習支援事業も官民連携で開始しているという。

「グローバルの例を挙げると、バングラデシュを中心に活動するNGO団体・BRACとのライセンス契約があります。有償フランチャイズで教室を運営して持続性を担保しつつ、貧困層のための無償スクールを展開するという事業です」

“こうした支援事業の根底にあるのは、"わが子のため"に誕生したという公文式の出自があるのだろう。世界中の不遇な"わが子"から目を背けず、誰一人取り残すことなく手を差し伸べていくという、KUMONの強い意思表示でもある。

公文式が、なぜ世界でこれほどまでに受け入れられたのか。最後に池上があらためてその問いに答えてくれた。

「“子を思う親の気持ち”は世界共通の想いです。世界中の親が例外なく “わが子がもっと伸びてほしい”と願っていることに変わりはないのです。公文式教育でその思いは世界中の公文式教室の指導者に伝播し、彼らはベテランも若手もなくお互いに子どもを伸ばすための指導を学び合い、よりよい術を考え、親の思いに応えるため、研鑽を欠かしません。

かつては企業や社会に合わせた人材を生み出すことが教育の役目でした。しかし現在、その価値観は変更すべき時を迎えています。それは必然だと私たちは考えています。本来、“教育”は、子どもが自立して楽しく自己実現するためのもの、受ける子どもたちのためにあるものでなければなりません」

主体は“子”であり“個”。そのための最高の教育システムが、公文式教育なのだろう。本質的な学びを、世界中の子どもたちに与えようとする情熱こそ、これからの教育に求められることなのかもしれない。


公文教育研究会
https://www.kumon.ne.jp




池上秀徳(いけがみ・ひでのり)◎1956年、千葉県出身。80年に東京大学文学部を卒業後、「公文数学研究センター」(当時)に入社。 公文式教材の制作および指導法開発に長年携わり、2015年より公文教育研究会 代表取締役社長に就任。現在に至る。

Promoted by KUMON / text by Ryoichi Shimizu /photographs by Shuji Goto / edit by Akio Takashiro