しかし、18年ごろ「国潮」という流行語が急浮上する。「これは自国の伝統文化や老舗ブランドを再評価するトレンド」と濱野。
コロナ禍の渡航禁止により、さらに自国ブランド人気が加速した。クチコミのブランドランキングでは、欧米の化粧品ブランドの勢いがそがれ、ITでは国産ブランドの順位が上昇したのが見て取れる。鍵となるのはZ世代。中国で「95後」(1995~2000年生まれ)、「00後」(2000年代生まれ)と呼ばれる若者たちだ。
国潮は、その世代の消費欲求の変化から生じたと濱野は見る。
「『マズローの欲求5段階説』と同様、それまでの『安全・安心』の基本欲求が『自己承認と自己実現』の欲求に移った。それに応えたのが、SNSの活用でファンコミュニティを育てたブランドです」
彼らの心をつかむため、新興企業は著名人を起用し、莫大なマーケティング投資を行っている。
コミュニティが「ダイナミック」に動く
Z世代の人気ブランドで濱野の注目は「パーフェクトダイアリー」だ。「コミュニティと一緒にコスメ商品を開発し、彼らに先行販売もする。ファンと一緒にブランドを育てるのは、家電メーカーのXiaomi(シャオミ)やEVメーカーのNIO(ニオ)でも同様です」。
もともと中国のECは、アリババとテンセントの2大資本がプラットフォームを担ってきた。「収益性を上げるため、その枠から脱却してロイヤルカスタマーの開発やCRMの改善を図る必要がブランド側にある。こうした動きがEC業界に地殻変動を起こしています。今後もし、ショート動画を提供するバイトダンスなどが『メディアと一体化したEC』のモデルを定着させたら、従来資本の牙城を崩すことにもなります」
Z世代は「全体消費の15%程度、化粧品消費でいえば3~4割に達するとも言われる一大勢力」と濱野。「中国経済の成長とともに資産家の家庭が増えた。さらに一人っ子政策(15年末に廃止)の影響で、両親と祖父母のお金がすべて一人に投資される『シックス・ポケッツ』の状況がある。使えるお金がかなり大きい20代前半がいるのです」。
すべてが「日本の10倍」であるダイナミックな規模の中国は、一人っ子でも人数は莫大だ。
「例えばバイトダンスの『抖音(ドウイン)』のデイリーアクティブユーザーは6億人と報じられています。海外版は別サービスの『TikTok』なので、国内だけの数字です。それらサービスの利用者に対し、各企業はインフルエンサーも活用してD2Cのモデルを築いています」