コロナが憎くて仕方ない それでも動き続けた藤井道人監督が手に入れたもの


自主映画は自己負担で数十万円をかけて撮るんですよ。ノーギャラで付き合ってくれたスタッフに、ギャラとしておにぎりを渡していた時期もありましたが、罪悪感が強かったです。この時期を通して、自分含めてスタッフが稼げるようにならなくちゃいけないと思うようになりました。



──スタッフのことを考えることが、会社運営の原動力になったのでしょうか?

そうですね。僕は「BABEL LABEL」という会社の創業者ではありますが、固定給をもらっているサラリーマンでもあるので、映画やドラマを何本つくっても給料は変わらないんですよ(笑)。いまは自分より会社のために仕事をしたい気持ちが強いです。

日本で映画界に入ってくる人たちが減っている理由は「貧乏っぽい」「厳しそう」というイメージがあるからだと思う。実際、僕も若いころは相当苦労していたわけですし。でも、映画界の労働環境に愚痴を言っても何も変わらないから、まずは自分たちの環境から変えていく。微力かもしれないですが、僕たちが続けていけば業界という大きなものも変わっていくと思っています。

──そのように考えるようになったきっかけは?

30歳を超えてから仕事に対する意識が変わったと思います。それまでは自分のやりたいことしか考えてなかったかもしれない。

是枝裕和監督の『万引き家族』(2018年公開)が、カンヌ国際映画祭でグランプリを獲ったうえに、30億円の興行収入を達成したのは大きな励みになりました。とにかく是枝監督の存在は大きかったです。なんてカッコいいんだと思いましたね。

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是枝裕和監督(Getty Images)

クオリティを追求しつつ、ヒットもさせる。自分がいつかカンヌ国際映画祭に行けるかは別として、こういうことができればと、いつも思っています。

スタッフひとりひとりが、しっかり休みを取って家族との時間を持てたり、人間的な時間帯で仕事ができたりするような環境をつくっていきたい。これを実現するためには、自分たちのやっている仕事をビジネスとして成立させないといけないんです。つくりたいものだけを気ままにつくっているのではダメで、とにかく興行的に結果を出す。結果を出せれば、予算も増えてチームにゆとりが生まれるので。

たまに「藤井は何人いるんだ」と言われたりしますが(笑)、実は、ドラマは全10話のうち3話だけ僕が監督して、あとは会社のほかの監督にまかせたりして、バランスを取っているものもあります。

──会社のチームで製作されている?

メインは僕ですが、若い監督と一緒につくらせてもらっています。若手が経験を積む機会になるし、彼らは彼らで「藤井を越えるものをつくってやろう」という意識がある。会社として、ひとつでも多くのオファーを受けることで、組織のレベルアップにつながる。そうやって自分たちの会社が不動のものになれば、自分も次のステージに行ける気がするんです。

──次のステージとは?

例えば、「BABEL LABEL」を、知的財産を持つことができる会社にしたい。もっと稼げる仕組みをつくって、それを作品づくりに還元していきたいと考えています。

文=嘉島唯 写真=帆足宗洋 編集=松崎美和子

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