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朝日新聞外交専門記者

岸田文雄氏(Photo by Xinhua/Du Xiaoyi/POOL/Anadolu Agency via Getty Images)

以前、ある大企業の幹部が「社内に昇進を望む人間は多いが、昇進した途端に眠りこける奴が多い」とぼやいていた。望んだポストに就いた途端、それで満足して働かなくなるという意味だ。4日、発足した岸田文雄内閣。岸田氏は9月29日、自民党総裁選に勝利した直後のあいさつで「今日から全力で走り始める」と訴えたが、果たして「眠りこける」ことがない政権になるのだろうか。

そもそも、今回の政局はなぜ起きたのだろうか。自民党のベテラン議員は「安倍(晋三元首相)と麻生(太郎元首相)による二階(俊博前党幹事長)の追い落としが全てだった」と語る。安倍、麻生両氏は、自分たちの影響力を残せると踏んだから、菅義偉政権をつくった。ところが、二階氏がいち早く「菅支持」を打ち出し、幹事長職にとどまることに成功した。同議員は「安倍も麻生も、二階が党の資金を自派拡大のために使っていると考えて不満を募らせていた」と語る。

安倍、麻生両氏は、二階氏を切ることを次の自民党総裁に求める条件とした。でも、この時点で、両氏が岸田氏を意中の人にしていたわけではない。そもそも、両氏は1年前には「岸田氏では選挙に勝てない」と考えて菅氏を選んだ。両氏も当初は、菅政権の続投を念頭に、岸田氏にも菅氏にも「二階氏の幹事長続投を認めないことが、支持の条件」と伝えていた。ところが、焦った菅首相(当時)周辺が党役員人事の前倒しや解散総選挙などを画策したため、党内の猛反発を呼んで菅氏は総裁選不出馬に追い込まれた。

それでも、安倍、麻生両氏はすぐに岸田支持を打ち出さなかった。安倍氏は高市早苗元総務相の支持を訴えた。当初、党内では「岸田に言うことを聞かせるための牽制」とみられていたが、「途中で本気になった」(自民党議員の1人)という。安倍氏は党員票の4割を占めると言われる組織票の関係者に片端から電話をかけ、岸田氏を支持する細田派の議員から「やり過ぎでは」と諫められるほどだったという。麻生氏も当初は、自派から立候補した河野太郎前行革担当相と岸田氏を両にらみする姿勢だったが、岸田氏優勢とみて俄然、岸田氏支持で動いたという。結局、麻生派は「岸田7割、河野3割」という投票結果に終わったという。

終わってみれば、安倍、麻生両氏の支持が決定打になった。岸田自民党総裁・首相を支える党執行部と官邸、内閣の顔ぶれをみれば、「安倍(麻生)のアバター内閣」(政府関係者)であることは間違いない。政府高官は「岸田さんが、政権操縦術に長けた安倍チームの力を借りているうちは、安定した政権運営が可能ではないか」と語る。その一方、安倍、麻生両氏による「岸田支持」の動機は、あくまで「二階外し」であって、岸田首相の政策や哲学に魅力を感じた結果ではない。

文=牧野愛博

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