食品ロスは、その一方で食べるものにも困る人がいるということだけでなく、複数の社会問題にまたがる、裾野の広いテーマとなっている。食卓にのぼれば家族の腹を満たしたであろう、まだ食べられる食品が捨てられている現状は、確かに危機的と言える。さらに食品ロスは、エネルギー、環境、サステナビリティの要素が絡み合った複雑な問題も喚起している。廃棄される食品の生産、加工、輸送、調理、保存、廃棄という工程には、土地や水、労働力、エネルギーが使われているからだ。
この危機的状況に取り組もうとしているのが、シェルフ・エンジン(Shelf Engine)という企業だ。同社は、高度な統計モデルと人工知能(AI)を活用し、顧客の小売業者が食品廃棄量を減らすための取り組みを支援している。具体的には、食料品店と提携して、買い物客の需要を予測するともに、発注の自動化を行う。
シェルフ・エンジンは9月21日、ラスベガスで開催されていた見本市「グローサリーショップ」で、オリンピックで3つの金メダルに輝くスノーボード選手のショーン・ホワイトを出資者として迎えたと発表した。
「食料品店でどれだけの食品が廃棄されているか、その量を耳にした時は、本当に信じられなかった」と、ホワイトは筆者に語った。「その数字は衝撃的であり、食品廃棄の厳しい現実を無視するという選択肢はなかった」
ホワイトに加えて、人気司会者のエレン・デジェネレスや女優のポーシャ・デ・ロッシ、シンガーソングライターのショーン・メンデスも、ベンチャーキャピタル・インフラストラクチャーの「PLUS Capital」が協力する戦略資金調達ラウンドを通じて、シェルフ・エンジンに投資を行った。PLUS Capitalは、自らの名声を生かして社会の変革を促したいと考えるアスリートや俳優、ミュージシャンなどの著名人に対して、ベンチャーキャピタルや投資銀行、スタートアップに関する助言を提供している。
シェルフ・エンジンは、2021年3月に行われたシリーズB資金調達ラウンドで4100万ドルを手にしており、今回の資金調達ラウンドはこれに続くものだ。
プロのスノーボード選手であるホワイトに特に期待されているのは、自らの知名度を生かして、小売業における食品廃棄と気候変動の関係についての意識を喚起することだ。米環境保護庁(EPA)のデータによると、米国では、地方自治体のごみ埋立地に捨てられるものの中で最も量が多いのが食品だ。しかも、廃棄された食品は、温室効果ガスの一種であるメタンを発する。全体で見ると、地方自治体が運営するこうしたごみ埋立地は、米国における人間に関連したメタン排出源として第3位に位置づけられる。