左:液体のような状態 右:硬い固形状態 (Wonderfulengineering.com)
この研究論文の責任著者で、カリフォルニア工科大学の機械工学・応用物理学G・ブラッドフォード・ジョーンズ寄附講座教授のキアラ・ダライオ氏は、素材の構造を説明するとともに、素材の応用性にも触れた。軍人が着用する外骨格型スーツや、怪我の治癒に合わせて硬さが変わるギプスや、その場で展開・硬化できる橋になる可能性も秘めているという。
「作りたかったのは、思いどおりに硬度を変えられる素材です」と、ダライオ教授は声明の中で述べた。「柔らかくて折りたたみ可能な状態から、硬く耐荷重性の高い状態へと自在に変化する。そんな素材を開発したかったのです」。
柔らかく折りたたみも可能 (Wonderfulengineering.com)
着想は真空パックから。中身はコーヒー豆でなく「ポリマー」
きっかけとなった発想は、我々にも馴染み深いものだ。
「真空パックされたコーヒーを思い浮かべてください。袋から空気を抜くと個々の豆が凝集(ジャミング転移)するため、開封前のパッケージは固体のように硬いですよね。しかし一度開封すると、凝集していた豆同士が離れて、液体のように別の容器に注ぐこともできるようになります」と、ダライオ教授は続ける。
ただし、この構造体の材料はコーヒー豆ではなく、ポリマーと金属だ。複雑に絡み合った連鎖を3Dプリンターで作り上げている。
「鎖帷子を応用したことで画期的なのは、粒子なのに引張荷重(※訳注:物を外側に引っ張る力)を支えられるようになった点です」と、同大学の機械工学教授のホセ・アンドラーデ氏は声明の中で述べている。「圧縮荷重に耐えられる紐(※訳注:圧縮荷重とは、物を内側に押す力。ここでは紐の両端から力を加えても縮まないことを指す)のようなものです」。
カリフォルニア工科大学の研究チームが開発した新素材 (Wonderfulengineering.com)
試験段階では、固形状態になった素材は自身の50倍以上の重量を支えることができた。現在、研究チームは固形状態から液体状態(または逆)へと変化させる方法を模索中だ。ダライオ教授は「パーカーの紐」のように、素材にワイヤーを通す方法などを検討している。
とはいえ、素材を医療現場に活かすには、まだしばらくかかりそうだ。実用化へ向けて、研究チームは構造体の小型化と改良を目指している。
(この記事は、英国のテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」から転載したものです)