良い教育を無駄にしない家庭改革 夫たちへ「妻を研究せよ」|高濱正伸 #2

提供=はなまる学習会

小学生や中学生という年代から、起業や高度な研究にチャレンジする子どもたちがいる。彼らはどのように才能を開花させてきたのか。そのストーリーに迫る連載「U15 才能開花の原点」。前回は、花まる学習会代表の高濱正伸が、子どもたちの思考力を伸ばす環境について事例とともに紹介した。今回は、子どもの成長の土台となる「家庭」を作るために、母親と父親はそれぞれどのような行動を取るべきか、高濱独自の経験も踏まえ、解説する。(前回の記事はこちら


教育は、誰でも何事か語れるし、時代時代で、はやりのキーワードが生まれ、話題になる。今ならば、プログラミングやSTEAM教育といったあたりか。

それらは確かにポイントを突いているのだが、前回書いた通り、子どもたちが人生の大半を過ごし絶大な影響を受ける「家庭」を安定させなければ、良き取り組みも灰燼(かいじん)に帰す。

これからの教育を考えたときに、最も力点を置くべきは、家庭改革であり、ここに目を背けて理屈を語ってはいけない。

連動する母と子の心


長年、子どもの育ちを見守ってきて思うのは、子育て中の家庭の中心はやはり「母」であるということだ。共働きであろうが、妻だけが外で働く専業主夫の家庭であろうが、これは譲れない。それは極めて生物的な動物全体に共通する真実であると思う。

己の体の物質を分けて腹の中で育て、命がけで産み、母乳を与えて育てる時点で、子への想い、情念のレベルが、父とは桁違いなのだ。ゆえに、特に幼児期がそうだが、子と母は心がつながったような、二人で一つのように過ごす時期も長い。

子が幸せだと母も嬉しいし、母が恐れや不安に満ちていると、子の心も緊張する。すぐに諦めたり、ネガティブな考え方をしたりする子どもの母親は大抵の場合、孤独やイライラを抱え、父親はその状況に気づかず「自分はしっかりやっている」という。

「母の心の安定に集中せよ」。これが一つの結論だ。母自身は、自分が笑顔になれるのはどんなときかを書き出して、それらを大切にすべきだし、夫は、自分の妻が安心できるために何ができるかに専心せよ、ということだ。

さて、母になった人なら分かるが、子についての心配が毎日こみ上げてくるのが普通である。彼女たちは、日々誰かに共感してもらい、ねぎらってもらい、「大丈夫だよ」と語りかけてもらい、アドバイスしてもらうことを必要としている。ところが、味方であるべきパートナーが、このことを理解してくれない。

せっかく相談しても、即座に解決策を言ったりする。解決策ではなく、ただ共感が欲しいだけなのに。

50年もさかのぼると、地域が確かに存在した。お互いの家に上がり込み、若い母は、先輩母さんたちからのアドバイスや共感を得ることができた。

今や地域など消え去ってしまい、町の自治会やPTAを面倒がる人も多い。そんな時代だからこそ、両親はお互いどう気を付けるべきか。

まず、母自身は、過剰に夫に期待して落胆するくらいならば、外に新しい「つながり」を求めるべきだ。この人と接触したときにはホッとできる、そういう居場所をたくさん作ろう。

具体的にはネット上のつながりを活かして、強固な安心空間を生み出している「母親アップデートコミュニティ(HUC)」が、参考になる。

HUCが凄いのは、専業・シングル・バリキャリなど境遇が異なる母同士でも、お互いを否定しない安心の場を創造できていることだ。そこで大事なテーマとなっているのが「SELF」というキーワードである。

つまり、良き母である前に、私個人は、本当は何に心が震え、何が好きで、何をやっていたいのかということを、世間的価値観や価格、偏差値的な枠組みにとらわれず、明確にすることである。
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文=高濱正伸 編集=露原直人

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