昨年10月、東京で元妻と暮らすわが子に会うため、ロシアのウラジオストクからヨットで2週間かけて日本に入国した、コリン・ローワット氏。イギリスのバーミンガム大学で准教授として働くカナダ人だ。
本稿の前半では、ローワット氏がヨットでの航海、入国という探検家顔負けの経験をどのように実現したかを1回目の例をもとに解説、後半では日本へのヨットでの2回目の入国を果たしたローワット氏への、都内での独占インタビューを紹介する。
出国後、2週間以上かけて移動
ローワット氏はコロナ禍以前から、1年に数回は、離れて暮らす息子に会いに来日していた。そしてコロナ禍という異常事態に見舞われてさえ、「わが子と会う機会をどんな形であれ作りだして、子どもたちとの関係を維持したい」は容易にあきらめられる想いではなかった。
しかし、日本の入り口は閉ざされていた。昨年4月から、イギリスやロシアなど百数十の国や地域に2週間以内に滞在していた外国人は、日本への入国拒否の対象になっていたからだ。
そこでローワット氏は思いついた。
「もし出国後、2週間以上かけて移動したら、2週間以内にどの国にも滞在していないことになり、入国条件をクリアできるのでは──。そのためにはヨットで2週間以上、海上にいればよいのだ」と。
米国からは800万円、でもロシアからなら150万円
ローワット氏はさっそく「Marinetraffic.com」というサイトで船会社探しを始める。まず英国からの入国者を受け入れる国として候補に上がったのは、米国だった。
しかし、アメリカから日本へのアプローチだと、手数料含めて運賃は800万円。あまりに高額で、あきらめざるをえなかった。
ロシアが、2020年8月1日から英国、トルコ、タンザニアだけには入り口を開くことを知ったのはちょうどその頃だった。とくに英国からの入国に関しては、英国国籍を持っていなくても「永住権」を持っていれば、旅行者として入国が許される。つまり、国籍はカナダだが、英国に永住権を持っているローワット氏もロシアには入国できるのだ。
ロシアの船会社にさっそく連絡、旅の予約を完了する。実は後日、船上で打ち明けられたことだが、あまりにも突飛な相談に、最初は皆、「やつはスパイなんじゃないか?」と疑ったという。
ヨットエージェンシーのカーク・パターソン(Kirk Patterson)から9月にきたメール
ヨットエージェンシーのカーク・パターソンからは、「9月は日本海は台風の影響を受けるので、非常にリスクが高い」との警告も受けた。実際に過去、9月初旬、大きな近代的な船でベテランの船員が乗っていたのにも関わらず、40人もが日本海上で死んだという例があると知った。
しかしそれでも、ローワット氏の決意はゆるがなかった。