ビジネス

2021.10.05

可能な限り「まるごと食べる」。ミツカンが挑む次なる食のステージ

豆や野菜をまるごと使ったZENBシリーズは200年以上続く企業のフィロソフィーから生まれた。


添加物に頼らない、素材だけで旨味を表現


ZENB のラベル表示を見るとわかるが、「PASTE」 5種類とも、原材料は野菜とオリーブオイルのみだ。野菜ソースである「ZENB SAUCE VEGE」にしても丸ごと野菜に、本格的に取った野菜だしや昆布だしを加えて、保存料や化学調味料などの添加物に頼っていない。「添加物、余分な調味料は加えない」というのは、濱名が開発当初から課していたルールだという。

「素材には本来のおいしさや栄養素がある。が、私たちがうまくそれを引き出していないだけだと考えたのです」

濱名CEO
ZENB ジャパン CEO 濱名誠久|ミツカン生え抜きの取締役でもあり、同社の精神を最も理解する者のひとり。

素材の味を引き出すのに、余分なものは一切使わず、むしろ取り除いていく。取り除いた先に素材本来の旨味と栄養が残る。通常は足していく製造方法だが、濱名は引き算の発想で商品づくりに挑む。添加物や余分な調味料に頼らず「おいしい味」として成立させるのは、食品メーカー初の試みでもあり、それだけにハードルが高かった。

例えば、2020年に発売されたZENB NOODLE。原材料は、黄エンドウ豆100%だけで、通常、麺に使われるつなぎや食塩などの調味料は一切入っていない。

「つなぎを入れれば簡単にできるのですが、あえて使わない。豆だけで弾性の食感を出すのは非常に難しかった。最初の3年ぐらいは、ボソボソとした食感で麺としてまとまらない状態でした」

素材と格闘するうえで頼ったのが、「料理人の技」だった。技術者は、料理人のもとへ通い詰める。例えば、青臭いトマト一つ取っても、料理人の腕にかかれば、切り方や炒め方、熱の掛け方ひとつで甘さが増す。とうもろこしであれば、ゆでて甘さを出す。砂糖の代わりに、甘さを表現する方法を探した。こうして学んだ料理の原理や料理人の知恵はすべて開発に応用した。そして、そこにミツカンの独自の加工技術を融合させ、ZENBが完成していくのだ。

レシピの画面写真
ZENBのシリーズ全てに美味しい調理法が数多く紹介されている。その中には、SNSに投稿されたレシピをアカウントの紹介とともに再現。素材が活きるZENBだからアイデアは尽きない。

SDGs-12「つくる責任 つかう責任」を実現した商品


ZENBがサステナブルな商品といえるのは、野菜を丸ごと使用してゴミを出さないという点だけでない。例えば、ZENB NOODLEのゆで汁さえも、スープやみそ汁、ソースのだしとして活用できてしまう。黄エンドウ豆100%のNOODLEなので豆の旨味が出ているからだ。麺専用のスープヌードル調味料と一緒に鍋ひとつでものの6、7分煮込めば、料理が完成する。この無駄のない調理法も特徴の一つだ。

ZENB PASTEは、スープにもソースにも、パンに塗るディップとしても使え、応用が利く。これは筆者がZENBを試した感想だが、まさに、つかう側のサステナブルな暮らしも可能にしてくれる商品なのだ。それは、国連が提唱する持続可能な開発目標 (SDGs)16のうちの12「つくる責任 つかう責任:持続可能な生産消費形態を確保する」を見事に達成しているといえる。
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文=中沢弘子 写真=西川節子(人物)

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