きっかけになったのは中国の大手不動産会社、中国恒大集団(エバーグランデ)の経営危機だ。資金繰りが悪化しており、「発行していた社債の利払いができなくなるなどして金融システム不安の引き金になる」との懸念が急速に広まった。
同社は1996年に創業。同国内の280以上の都市で1300以上のプロジェクトを推進するなど不動産事業を広範に展開する。電気自動車の開発や食品・飲料の製造など他のビジネスも幅広く手掛ける巨大複合企業(コングロマリット)だ。同国のサッカーチーム、広州フットボールクラブの運営も行う。
同社を率いる許家印会長は中国屈指の大富豪として知られる。2017年の「フォーブス・チャイナ」のランキングによれば、同年の資産額は425億ドル。テンセントのマー・ファテン、アリババグループのジャック・マーという中国の2大IT企業のトップらを抑えて、同国一の富豪の座に躍り出た。
不動産バブルの追い風に乗って急成長を遂げたが、20年に政府の打ち出した不動産融資制限政策が体力を奪っていく。香港証券取引所で売買されている同社株式の昨年末からの値下がり率は24日時点で約84%。負債額は日本円で33兆円あまりと、中国の国内総生産(GDP)の2%程度に相当する規模だ。
「恐怖指数」の急上昇
恒大集団問題で投資家の不安心理が高まったのは、米シカゴ・オプション取引所(CBOE)算出のボラティリティ・インデックス(VIX)の値動きからも明らかだ。VIXはS&P500種株価指数のオプション取引を基にはじき出されているもので、多くの市場関係者がリスク許容度を図る物差しとして注視している。
VIXは別名、「恐怖指数」。指数の上昇は投資家が株式や商品などいわゆるリスク資産回避に傾いていることを示唆するからだ。これに対して、VIXの下落はリスク資産へ資金を振り向けようとの動きが強まっていることを意味する。つまり、VIXと株価は逆相関の関係だ。VIXの上昇局面では通常、株価が値下がり。下落場面だと株高に振れる。
VIXは20日に一時、28ポイント台まで急上昇。5月13日以来の高水準に達した。4月の米消費者物価指数の予想外の大幅な伸びをきっかけに、同国のインフレへの警戒感が台頭。長期金利の上昇を受けて、米国株式が調整を余儀なくされた時期である。
しかし、恒大集団の問題を機に高まった悲観ムードはひとまず鎮静化。同社が23日に予定していた元建て社債の利払い実施を発表したのが主因とみられる。日米両国の株価は急反発。VIXも23日時点では18ポイント台まで低下した。市場関係者の間では今のところ、2008年に起きた「リーマンショック」のような「世界規模での金融システム不安につながる可能性は低い」との見方が優勢だ。